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『911代理店』 - 「緊急事態に対処するサービス」を行う「何でも屋」

「極秘組織を扱った作品」の第二弾は、渡辺裕之911代理店』(ハルキ文庫、2020年)。「何でも屋」に近い謎の組織「911代理店」(社長は元警察官の岡村茂雄)。「仮釈放中の者を雇って社員にし、裏で悪事を働いている」という噂も。実際は、「困っている人を助けること」をミッションに、「緊急事態に対処するサービス」を行っています。新たにそこに加わることになったのが、警視庁東京国際空港テロ対処部隊の元航空機警乗警察官(スカイマーシャル)・神谷隼人。同社を構成する6人のメンバーの活躍と仕事ぶりが描かれています。「911代理店」シリーズ第一作。

 

[おもしろさ] 特殊な能力を持つメンバーが協力して

アメリカでは、警察、消防、救急車の区別はなく、すべて911の番号に電話を掛ける。緊急のコールセンターで必要な処置を決定する」。その日本版を想定して創られたのが「911代理店」。そのサービスは多種多様。鍵が壊れたら、どこにでも駆け付けて修理をする。お客様に代わって悪どいクレーマーに対応する。防犯対策のアドバイスをして資産を守るなどのリスクマネジメントを行う……。それらの業務を担うのが、岡村社長と神谷を含めた6人のメンバーです。二重人格に苦しんだり、前科者であったりと、心に傷を負いつつも、鍵・セキュリティ・クレーマー対策・ハッキングなど、スペシャリストとしての技量を持っている人たちばかり。各々の特異なパワーが反響し合い、人助けのため効果的に活用されます。本書の特色は、彼らの特殊な能力がどのように生かされていくのかという叙述にあります。

 

[あらすじ] 始まりはある親子の不幸を知ってしまったこと! 

恋人を失い、失意のドン底に苦しんでいた神谷隼人。いくつかの仕事に就くものの、不摂生な生活態度からすぐにクビに。新宿歌舞伎町で、「殴られ屋」という珍商売で、日銭を稼いでいたとき、広域暴力団心龍会の若頭、木龍景樹と知り合いに。彼の紹介で、「株式会社911代理店」で働くこととなります。事務所があるのは、かつてのラブホテル。「ホテルエンペラー新宿」という看板がそのまま残っています。物語の始まりは、「鍵の相談」を通して、佐藤久美・陽平親子の不幸を知ってしまったこと。二人を苦境から救い出そうとしたら、一家の大黒柱であった佐藤勝巳の死をめぐる真実に辿り着きます。その謎を解き明すべく、社員総出の行動が開始されます。