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『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』 - 地域密着型金融機関のあり方

「地域金融機関を扱った作品」の第三弾は、菅井敏之、お金総合研究所『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム、2017年)です。地域密着型の金融機関の代表格でもある信用金庫が舞台。京都ならではの商慣習に戸惑いつつも、大手銀行が仕掛ける罠に抗するなかで「お金のプロ」として成長していく若手信金マンの姿が描かれています。メガバンクの元支店長だった著者の経験談を軸に執筆された作品。

 

[おもしろさ] 「信金は銀行に成り下がっちゃ駄目」

メガバンクと比べて、きわめて不利な状況下におかれている信用金庫。例えば、信用金庫法で、大企業との取引は禁止。老舗の旅館や料亭などは非常に気位が高く、相手にしないところも多い。金利ダンピングでは、都市銀行には勝てない……。それらのハンディーを克服するには、どのような方策があるのか? 想起されるのは「信金は銀行に成り下がっちゃ駄目」というキーワード、銀行と比べて不利な点に嘆くのではなく、信金(その原点は、「友愛と共感」という思想が根底にある信用協同組合)の有利な点を活かしていくという、いわば「逆転の発想」だったのです。

 

[あらすじ] ネガティブ思考からポジティブ思考へ

東京の予備校で一浪したあと、和久井健太が辛うじて入学できたのは京都の私立大学。卒業後、唯一内定を出してくれたのは、やはり京都にある洛中信用金庫。同信金に就職して3年目。北大路支店の営業部で働いています。が、引っ込み思案、屈辱感、劣等感、上司や先輩から下される厳しい評価などで、思い悩む毎日です。しかし、職業・住所・年齢などが不明の謎の中年男性・桜四十郎と出会い、いろいろなアドバイスをもらうなかで、彼の中に大きな変化が生じます。「しがない信金マン」と自分で勝手に決めつけていたことを反省。「お役に立てたなら光栄です」というキャッチフーレーズを自らに課し、ネガティブ思考からポジティブ思考へと変わっていきます。