経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

作品紹介-3年目

『地面師たち』 - 百億円の土地を騙し取る! 

人を騙して、お金や品物を取ったり、損害を与えたりする詐欺という行為には、さまざまな手口があります。ポピュラーなところでは、オレオレ詐欺、還付金詐欺、ワンクリック詐欺、フィッシング詐欺、結婚詐欺など。冷静に考えれば騙されたりしないように思わ…

『あしたの官僚』 - ブラック企業顔負けの労働現場のなかで

「官僚を扱った作品」の第二弾は、周木律『あしたの官僚』(新潮社、2021年)です。厚生労働省キャリア技官として働いている松瀬尊30歳の目線で、官僚という世界のオモテとウラが浮き彫りにされています。「俺……官僚になるよ。立派な官僚になって、日本のた…

『官僚たちの夏』 - 官僚たちの今・昔

「忖度」(そんたく)という言葉があります。相手の心、気持ち、立場を考えて行動することという意味です。それ自体、けっして悪い行動ではありません。が、官僚たちが政治家の気持ちや意向を察して便宜を図ったり、上位の立場にある人だけを特別扱いしたり…

『一緒にお墓に入ろう』 - お墓をめぐる本人・妻・愛人のつばぜり合い

「お墓を扱った作品」の第二弾は、江上剛『一緒にお墓に入ろう』(講談社文庫、2021年)です。お墓のあり方をめぐって、妻と愛人の言動に右往左往する銀行役員の姿がコミカルなタッチで描きだされています。また、墓じまいがどのようにして決意され、どのよ…

『ある晴れた日に、墓じまい』 - イマドキのお墓事情

「後を継いでくれる子どもがいない」「先祖代々のお墓が遠方にあり、なかなか墓参りに行けない」「維持・管理の負担が大きい」「子や孫に負担を負わせたくない」……。少子・高齢化、核家族化、地方の過疎化などの進展に伴い、「墓じまい」を選択する人が増え…

『今日から仲居になります』 - 老舗旅館で出会う「おもてなし」

「旅館を扱った作品」の第三弾は、中居真麻『今日から仲居になります』(PHP研究所、2016年)。老舗旅館を舞台にした新人仲居の奮闘記。仲居・旅館業を扱ったお仕事小説でもあります。「本物のおもてなし」とはなにか! 「この世界に楽な仕事はない。だけど…

『会社再生ガール』 - 老舗旅館の再生に挑む企業再生プランナー

「旅館を扱った作品」の第二弾は、田中伸治『会社再生ガール』(青月社、2010年)。再建という美名のもと旅館の転売で大儲けをしようとするコンサルティング会社と、それに対抗して旅館の存続を図ろうとするコンサルティング会社との攻防劇が描かれています…

『万事オーライ』 - 「別府観光の父」と呼ばれた男

コロナ禍で大きく抑制されているヒトの移動。とはいえ、それは、人々の生活を維持していくうえで欠かせない経済活動のひとつです。移動の目的は、娯楽、食事、仕事、旅行・観光など、多様です。一日で完結しない場合や遠隔地に移動する場合は、宿泊が必要に…

『社内保育士はじめました』- 新米女性保育士の奮闘記

「保育士を扱った作品」の第二弾は、貴水玲『社内保育士はじめました』(光文社文庫、2018年)。子どもと接する術がよくわからない新米保育士が失敗を繰り返す中で徐々に子どもやその親たちとの距離感を見極め、仕事に喜びを発見するようになっていきます。…

『戦うハニー』 - 新米男性保育士の奮闘記

子どもが生まれても働き続けたい。安心して子ども預ける場があれば、仕事を辞めたくない……。そのように考えている人は極めて多いようです。ところが、預けられる保育施設がなかなか見つかりません。保育施設には、定員数や保育士の配置基準があり、子どもの…

『カラ売り屋 VS 仮想通貨』 - 仮想通貨の罠

「カラ売り屋を扱った作品」の第四弾は、黒木亮『カラ売り屋VS仮想通貨』(角川書店、2021年)。パンゲアによる「カラ売り屋」シリーズ四作目。8月27日に出版されたばかりの最新作です。今回は、仮想通貨交換業者、巨大航空会社、新興電気自動車メーカーをタ…

『カラ売り屋、日本上陸』 - あくどい経営者に「天の裁き」を

「カラ売り屋を扱った作品」の第三弾は、黒木亮『カラ売り屋、日本上陸』(角川書店、2020年)。パンゲアによる「カラ売り屋」シリーズ三作目の作品です。ニューヨークのカラ売り屋が東京に日本事務所を開設。巨大医療グループ、シロアリ駆除会社、総合商社…

『リストラ屋』 - 強欲な「コストカッター」に挑む

「カラ売り屋を扱った作品」の第二弾は、黒木亮『リストラ屋』(講談社、2009年)。パンゲアと北川靖による「カラ売り屋」シリーズ二作目に当たる作品。スポーツ用品メーカーの新しい経営者として招聘された人物は、人とコストをギリギリの極限状態まで減ら…

『カラ売り屋』 - あくどい企業を探し出し、調べ、徹底的に戦う

空(カラ)売りとは、投資対象である物を保有せずに、対象物を売る契約を結ぶこと。「株式のカラ売りの場合は、証券会社などから借りてきた株を市場で売却し、株価が下がったところで買い戻し、借りていた株を返却」。その差額で利益を得る取引のことです。…

『ウイスキーボーイ』 - 宣伝マンの矜持

「ウイスキーを扱った作品」の第二弾は、吉村喜彦『ウイスキーボーイ』(PHP文芸文庫、2014年)です。かつて、ウイスキーはモルトだけでした。シンプルで、性格がストレートに出ます。ところが、産業革命で連続式蒸留器が発明され、グレイン・ウイスキーとい…

『リタとマッサン』 - 国産ウイスキーの誕生に生涯をかけて夫婦

いまや海外でも高い評価を受けている国産ウイスキー。2021年8月現在、稼働中の蒸留所は39カ所にまで増加しています。しかし、国産ウイスキーに向けての最初の動きがあった1920年頃はまだ、アルコールに色と香りをつけた「名ばかりのウイスキー」が横行してい…

『ジバク』 - 「人生の勝ち組」から「どん底」への転落

「転落を扱った作品」の第二弾は、山田宗樹『ジバク』(幻冬舎、2008年)です。優秀なファンドマネージャーであった主人公が、高校時代のクラス会で憧れていた女性と再会したことを契機に、「転落人生」を転げ落ちていくことになります。地獄のどん底まで落…

『東京難民』 - 転落人生のプロセスと結末

同じことの繰り返しで過ぎていく平穏な毎日。長く続けていると、そのありがたさは見失われてしまいがちに……。そのようなとき、誰しもが経験するかもしれない人生の転落ぶりを描いた小説を読めば、どのような感想を持つでしょうか? 今回は、あることを契機に…

『ブルーベリー作戦成功す』 - 新薬開発に伴う特許戦争

「知的財産を扱った作品」の第三弾は、池上敏也『ブルーベリー作戦成功す』(幻冬舎、2014年)です。特許戦争の全貌を書き記した本書は、特許出願中の抗生物質の販売停止を強く要請する「警告書」から始まる壮大な物語です。敵対する巨大な多国籍企業に特許…

『ロボジョ!』 - 知財ビジネスの基本! 

「知的財産を扱った作品」の第二弾は、稲穂健市『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』(楽工社、2020年)です。大学生の主人公が開発したロボットやそれに搭載する技術の開発状況、その活用方法、成果物をめぐる争奪戦が描写。巻末に「知的財産権 入…

『それってパクリじゃないですか?』 - 知財関連で働く人へのお助け本! 

アメリカにおいて、知的所有権(発明やデザインなど、精神的創作努力の成果としての知的成果物を保護する権利の総称)の保護戦略が本格的に進められる契機になったのは、レーガン政権下の1985年1月に出された「ヤング・レポート」と考えられています。そこで…

『ほどなく、お別れです』 - 葬儀社という仕事の真髄と、葬式の本質

「『生と死』を扱った作品」の第二弾は、長月天音『ほどなく、お別れです』(小学館、2018年)です。清水美空には、美鳥という姉がいました。生まれる前に先立ってしまったのですが、夢の中では「幼い姿の姉」と何度も遭遇。そして、彼女によって守られてい…

『むかえびと』 - 新しい命を迎える助産師というお仕事

かつて梓みちよさんが歌ったヒット曲『こんにちは赤ちゃん』。「こんにちは赤ちゃん あなたの笑顔…… あなたの泣き声 その小さな手 つぶらな瞳 はじめまして わたしがママよ……」。思わずハミングしてみたくなる永六輔さんの歌詞。生まれてきた新しい命に対す…

『55歳からのハローライフ』 - 人生の折り返し点からの「再出発」

「中高年を扱った作品」の第三弾は、村上龍『55歳からのハローライフ』(幻冬舎、2012年)。①離婚した女性58歳の婚活、②出版社をリストラされたあと、アルバイトでなんとか生計を維持している58歳の男性、③早期退職に応募し、キャンピングカーで全国を旅する…

『早期退職』 - 「リストラ」を促された中高年社員の悩みと不安

「中高年を扱った作品」の第二弾は、荒木源『早期退職』(角川文庫、2018年)です。働く中高年男性社員の悩み事は、『雨の日は、一回休み』で扱われたような若手社員や女性社員との距離感をどのようにとっていくのかという点に関わることだけではありません…

『雨の日は、一回休み』 - 世代間ギャップと女性との距離感に悩むおじさんたち

人は皆、人生の折り返し点を過ぎ、いわゆる「中高年」と称される年代になると、体力の衰えを感じたり、老いを意識したりすることが増えてきます。老後に向けて生活費を円滑にねん出することができるかどうかという、経済的な不安も、頭の中にこびりつき、離…

『ひまりの一打』 - プレイヤーとキャディというタッグを通して

「アスリートを扱った作品」の第三弾は、半田畔『ひまりの一打』(集英社文庫、2021年)。プロゴルファー・中原ひまりのゴルフに対する考え方・思い入れを軸に、女子プロの世界、コーチ・キャディというタッグのあり方、スポンサーとの関係、ライバルとの駆…

『ゲームセットにはまだ早い』 - 野球のクラブチームの実態! 

「アスリートを扱った作品」の第二弾は、須賀しのぶ『ゲームセットにはまだ早い』(幻冬舎文庫、2017年)です。新潟県で町おこしの一環として創設されたばかりのクラブチーム「三香田ヴィクトリー」が舞台。チームを構成する監督・キャプテン・選手・マネー…

『独走』 - 「金メダル倍増計画」が問いかける! 

まもなく開会式を迎える東京オリンピック。世界中のトップアスリ-トが集うこの大会は、本来ならば、世界中の多くの人々の関心と声援の的になるはずのものでした。ところが、コロナ禍の影響で、なんとなく盛り上がりに欠けています。戸惑いを感じている方も…

『ニュータウンは黄昏れて』 - 建て替え・修復から再生・活性化へ

「マイホームを扱った作品」の第三弾は、垣谷美雨『ニュータウンは黄昏れて』(新潮文庫、2013年)。東京郊外のニュータウンに住むある家族の苦境・現状からの脱却を軸に、建物の建て替え・修復、さらにはニュータウンという地域の再生・活性化に関わる問題…