経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『会社を綴る人』 - 社史の「完成」に賭けたダメ男の挑戦

「社史を扱った作品」の第二弾は、朱野帰子『会社を綴る人』(双葉文庫、2022年)。錦上製粉の社史を読み、同社に入社した菅屋大和(作品の中では、最上製粉の紙屋として登場)。失敗ばかりのダメ男ではあったのですが、彼の唯一の「取り柄」である「文章を…

『星間商事株式会社社史編纂室』 - 社史で会社の暗部をどう扱う? 

会社・組織・団体のHPを見ると、内容の差はあれ、どのような歴史を歩んできたのかという情報がまとめられています。そうした「沿革」というものを、従業員・顧客・株主・就職希望者など、多くの人たちが閲覧します。ただ、記載されているのは、簡単な事実・…

『プリティが多すぎる』 - ファッション誌編集者のリアル

「編集者を扱った作品」の第四弾は、少女向けファッション誌の編集者を素材にした大崎梢『プリティが多すぎる』(文藝春秋、2012年)。対象年齢はずばり「女子中学生」というファッション誌『ピピン』に異動となった新米編集者・新見佳孝。最初は「驚きと疑…

『次回作にご期待ください』 - 漫画業界の実態 + 漫画誌編集者のお仕事

「編集者を扱った作品」の第三弾は、月刊漫画誌の編集者を素材にした問乃みさき『次回作にご期待ください』(角川文庫、2018年)。漫画誌の若き編集長・眞坂崇と同期の編集者・蒔田了の物語。編集長という名の管理職に抵抗感を持っている「お人好しの眞坂」…

『クローバー・レイン』 - 文芸編集者は小説のためには「何でもする人」

「編集者を扱った作品」の第二弾は、前回と同じで、文芸編集者を素材にした大崎梢『クローバー・レイン』(ポプラ社、2012年)。作家とのさまざまなやり取り、ライバル社の編集者との交流・競争などを通し、文芸編集者・工藤彰彦の仕事の全体像が多角的に浮…

『新米編集者・春原美琴はくじけない』 - 小説が大嫌い。でも文芸編集者に

総務省統計局によると、2019年の出版数は7万1903冊。一日換算では、およそ200冊の本が発売されています。本が作られるとき、通常、著者が書いた原稿がそのままの形で印刷されるわけではありません。内容がチェックされ、誤りがあれば、その訂正が行われます…

『異動辞令は音楽隊!』 - 辣腕刑事がドラム奏者に! 

「音楽隊を扱った作品」の第二弾は、警察音楽隊を素材にした内田英治『異動辞令は音楽隊!』(講談社文庫、2022年)。前回紹介した航空自衛隊中央音楽隊と比べると、都道府県ごとに設置されている警察音楽隊の方は、活動領域・隊員数・予算規模はかなり小粒…

『碧空のカノン』 - 自衛官として演奏活動という任務を担う音楽隊

音楽隊を持っている公的組織としてよく引き合いに出されるのが、自衛隊、警察、消防の三つです。同じように音楽隊という言葉が使われていますが、その内実はかなり異なっているようです。ただ、音楽隊が行っているさまざまな行事や式典での演奏活動が各組織…

『森崎書店の日々』 - 「決して忘れ得ぬ、大切な場所」

「古書店を扱った作品」の第二弾は、八木沢里志『森崎書店の日々』(小学館文庫、2010年)。小さな古書店がずらっと軒を構える「本の街・神保町」が舞台。恋人と仕事を失い、失意のどん底に陥った貴子が、その地で中古本を販売する「森崎書店」を営む叔父の…

『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』 - 本と料理で、お客様の人生を見つめ直す

ネットで本を買う人が増えている昨今ですが、リアル書店の魅力にも捨てがたいものがあります。買いたい本を探し求め、ついに巡りあったときの喜びはひとしお。内容や構成を確かめたり、本の装丁を楽しんだりしたうえで、買うかどうかを決めることができます…

『空ガール!』 - CAというお仕事のイメージと現実

「空のお仕事を扱った作品」の第二弾は、CAを素材にした浅海ユウ『空ガール! 仕事も恋も乱気流!?』(マイナビ出版ファン文庫、2016年)。華やかなイメージに憧れ、日本国際航空に入社して7年目となる、アラサーのCA(キャビン・アテンダント)鳥居紗世。こ…

『機長、事件です!』 - 優れたパイロットの心構えと行動力

新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置づけが「5類」に移行され、初めて迎える夏休み。訪日観光客(インバウンド)が急増しているだけではありません。国内旅行や遠出を楽しむ家族連れで、各地の観光地はどこも賑わっています。コロナ禍で客足が鈍ってい…

『倒産仕掛人』 - 危ない会社に群がる危ういビジネスマンたちの格闘

「倒産を扱った作品」の第三弾は、杉田望『倒産仕掛人』(文芸社文庫、2017年)。会社はいったん倒産の憂き目にあっても、再建されて再び上場にまでこぎつければ、巨額の上場益を生み出すことができる! 危ない会社を事実上の倒産に追い込み、そこで利益を上…

『経営者失格』- 三社(サンライズ、日本開発、東邦商事)三様の思惑

「倒産を扱った作品」の第二弾は、咲村観『経営者失格』(講談社文庫、1981年)。有名デザイナーである大石義介社長に率いられるサンライズ。一世を風靡したファッション製品をテコに、会社は大躍進。しかし、イケイケドンドンの経営方針が裏目に出て、倒産…

『倒産』 - とてもドロドロとした人間ドラマ

「倒産」という言葉。一般的には「会社の資金繰りが悪化し、借金の返済や取引先への支払いができなくなり、会社がつぶれること」を意味しています。ある会社が倒産の危機に瀕すると、さまざまな利害関係者の間で、それぞれの利益・債権を最大限確保・回収し…

『あの日にドライブ』 - 「もう一度人生をやり直すことができたら」

「タクシードライバーを扱った作品」の第二弾は、荻原浩『あの日にドライブ』(光文社文庫、2009年)。退職を余儀なくされたエリート銀行マン・牧村伸郎が仕方なく再就職先として選んだのはタクシードライバーの仕事でした。が、現実は厳しく、営業不振で悩…

『タクジョ!』 - 頑張れ! 新人女性ドライバー

かつてタクシーの運転手といえば、ほぼ間違いなく男性でした。ところが昨今、運転手の人手不足や高齢化が進むなか、女性や外国人のドライバーを積極的に採用するタクシー会社が増えているようです。運転手になるためには、二種免許(普通免許を取ってから3年…

『代書屋ミクラ』 - 「論文の共同執筆者」の域に踏み込む代書屋

「代書屋を扱った作品」の第二弾は、松崎有理『代書屋ミクラ』(光文社文庫、2016年)。「3年以内に一定水準の論文を発表できない研究者は、大学を退職しなければならない」。通称「出すか出されるか法」という架空の法律のもと、研究業績の発表に血眼になる…

『ツバキ文具店』 - 依頼人の心に寄り添う代書屋!

書類や手紙を書こうとしても、なかなか筆が進まない。とりあえず書いてはみたものの、果たしてこれでいいのか、自信が持てない……。だれか代わりに書いてほしい! つい願ってしまいます。本当に切羽詰まってしまったら、また身近なところに、「文章作成を代行…

『細胞異植』 - 取材との格闘の末に! 

「女性記者を扱った作品」の第二弾は、仙川環『細胞異植』(新潮文庫、2014年)。大日新聞北埼玉支局に赴任した記者・長谷部友美の成長物語。「馬力もある。少なくとも、プライベート優先でなるべく効率的に仕事をしたい最近の若いもんとは、目つきも気構え…

『吠えろ! 坂巻記者』 - わがままな上司との葛藤の末に! 

新聞記者の仕事は、世の中の情報を人々に正しく伝えること。そのためには、綿密な取材・調査・学習などを通し、エビデンスを明確にしたうえで記事を書くことが求められます。ところが、取材相手が常に協力的かと言うと、けっしてそうではありません。触れら…

『警視庁53教場』 - 警察学校教官の謎の死から始まる物語

「警察学校を扱った作品」の第二弾は、吉川英梨『警視庁53教場』(角川文庫、2017年)。2001年の警視庁警察学校1153期小倉教場に所属していた学生たちの動きと、16年後の「事件」に対する捜査活動が並行して語られていきます。捜査するのは、警視庁刑事部捜…

『教場』 - 冷酷冷徹な白髪教官・風間公親

2023年6月14日、事件が起こりました。入隊間もない18歳の自衛官候補生(守山駐屯地所属)が自動小銃を発砲し、指導役として教育に当たっていた陸上自衛隊員の上官3名を死傷させたのです。候補生が自衛官に任官されるまで3カ月。さらに1年9カ月の任期を終える…

『グリーン・グリーン』 - 都会育ちの農業オンチが農林高校の教師に! 

「高校教師を扱った作品」の第二弾は、あさのあつこ『グリーン・グリーン』(徳間文庫、2017年)。県立喜多川農林高校の教師になった翠川真緑(みどりかわ みどり)。「グリーン・グリーン」は彼女のあだ名です。都会育ちで、農業オンチのグリーン・グリーン…

『学校のセンセイ』 - 高校教師の右往左往! 

教師モノのドラマや小説の主人公。連想しがちなのは、ヒーローのような活躍とか、頼りがいのある「先輩」とか、品行方正な人格者とか、「教師=尊い職業」といった考え方ではないでしょうか? しかし、教師もまた人間。生徒との距離感がわからなかったり、仕…

『羊と鋼の森』 - 「心が震えるような美しい音色」を作り出す調律師! 

「ピアノを扱った作品」の第二弾は、宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋、2015年)。弦の張りを調整し、ハンマーを整え、ピアノがより美しく音楽を形にできるようにする調律師。ピアニストが美しい音を出せるには、彼らの存在を欠かすことができません。高校…

『ピアノマン』 - ジャズピアニストの苦悩のかなたにあるもの! 

『エリーゼのために』という曲のよく知られた冒頭。ほんの一節ですが、学生時代の一時期、ピアノで音を出せたことがあります。とてもうれしく思った。そんな記憶があります。それ以来、ピアノに触れる機会はなく、聴くこともほとんどありません。ただ、何年…

『小説 若おかみは小学生!』 - 誰も拒まない。受け入れ、癒してくれる「春の屋旅館」

「旅館の女将を扱った作品」の第二弾は、令丈ヒロ子(原作・文)、吉田玲子(脚本)『若おかみは小学生! 劇場版』(講談社文庫、2018年)。交通事故で両親を亡くした小学校六年生の関織子(通称おっこ)が祖母の営む温泉旅館「春の屋」で若女将として修業す…

『海近旅館』 - 省力化 + サービスの充実 ⇒ 旅館の立て直し

コロナ禍で、人の移動が大きく制限され、深刻な打撃を受けた宿泊業界。政府が旅行代金を補助する全国旅行支援を始めたのが、2022年10月。それ以降、日本人の延べ宿泊者数は大きく増加しています。ところが、多くの従業員が辞めてしまったことで、今度は深刻…

『かすがい食堂』 - 駄菓子屋から始まり、子ども食堂につながっていく

「食堂を扱った作品」の第三弾は、「子ども食堂」の発足につながる試みを描いた伽古屋圭市『かすがい食堂』(小学館文庫、2021年)。東京・下町の「駄菓子屋かすがい」を受け継いだ春日井楓子は、拒食症をはじめ、さまざまなトラブルを抱える子どもたちのた…