経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

お仕事小説のキホン

経済小説案内人イチケンです。

三日間にわたって、経済小説の基礎知識をご紹介しました。

今日は番外編として、経済小説の中で近年急成長している一分野を取り上げます。

 

 

1 お仕事小説とは、どのようなもの?

2000年前後からの変化と申しますと、もうひとつ大きな流れがございます。それは、さまざまな仕事、職場とそこで働く人々の姿を描いた作品が多く登場してくることです。それらの作品群は、いつのころからか、お仕事小説というネーミングで久しまれた存在になっています。
かつて、働く人を描いた小説として、サラリーマン小説がありました。主人公は男性でした。しかし、お仕事小説では、女性を主人公にした作品も多く、女性の作家も増えています。
その背景には、豊かになり、明確な目標がみつかりにくくなったいま、男性も女性も働くことにもなんらかのモチベーションや働きがいを常に探しながら生きていくことを余儀なくされるという時代状況があるわけです。
それだけではありません。仕事に対するモチベーションは、個人のライフステージとともに大きく変化していきます。例えば、仕事を始めたばかりのとき、数年間働いてやっと仕事に慣れたとき、結婚・出産・育児と仕事の両立を図るとき、ベテランになったとき、定年を迎えようとするときなど、それぞれの立場で仕事・世代においてモチベーションのあり方は大いに変わってくるわけです。また、組織における地位によっても、仕事上の課題は、大いに変わっていくものです。それぞれの状況に応じた、多種多様な仕事と働く人を扱った作品が刊行されているのは、そのためなのです。

 

2 お仕事小説の効用とは?

お仕事小説の効用として、4点を挙げることができます。
一つ目として、いろいろな仕事を疑似体験することによって、仕事に関する多様な選択肢を知る手段となります。
二つ目として、誰しもが直面する悩み・不安・課題を知り、解決に向けてのヒントを得ることができます。同じ悩みを持っている登場人物を通して、改善するには、何をどうすればよいのかを見出す契機を与えてくれます。
三つ目として、「働きがい」の発見や「モチベーションの向上」にも役立ちます。どのような仕事でも、長く続けていくには、モチベーションの向上が必要になります。ところが、親や学校も、モチベーションの高め方まで、普通は教えてくれません。もちろん、なんらかのアクションも起こさない限り、モチベーションのほうからあなたに近づいてくるわけではないのです。当事者が積極的に探す求めることが必要になるのです。
お仕事小説は、そうしたニーズに応えてくれます。多くの作品で、モチベーションの高め方が扱われています。具体的には、「仕事そのものの魅力の発見」「自分の優れたスキル・能力のパワーアップ」「顧客からの感謝やお褒めの言葉」「同僚からの評価や信頼」などによって、モチベーションを高めていくという登場人物の姿が生き生きと描き出されています。きっと、参考になるでしょう!
四つ目として、仕事というものをまったく経験していない高校生や大学生などには、仕事を理解するための、あるいは職業を選ぶための格好の参考書になりえます。

 

3 どのような作家がお仕事小説を書いているの?

もっぱらお仕事小説のみを書いている作家はおりません。ほかのジャンル作品を書きながら、お仕事小説も書いておられると考えてください。最近のトレンドとしては、「女性を主人公にした女性の作家」も増えてきていますので、そうした作家・作品を10名ほど紹介しておきましょう。

碧野 圭(あおの けい)
『辞めない理由』(2006年;出版社、ワーキングマザー)
『書店ガール』シリーズ(2012-18年;書店員としての成長、書店の活性化)
『駒子さんは出世なんかしたくなかった』
(2018年;女性の中間管理職、仕事と家事の両立)
朱野 帰子(あけの かえるこ)
『駅物語』(2013年;新人駅員)
『わたし、定時で帰ります。』(2018年;残業、仕事の質)
朝比奈 あすか (あさひな あすか)
『あの子が欲しい』(2015年;新人の採用)
『天使はここに』(2015年;ファミレス、仕事に対する誠実さ)
泉 ハナ(いずみ はな)
『ハセガワノブコの華麗な日常』(2015年;外資系銀行、仕事よりもアニメを)
垣谷 美雨 (かきや みう)
『あなたの人生、片づけます』(2013年;片づけ屋、モノの処分と心の整理)
『農ガール、農ライフ』(2016年;農業への参入)
篠田 節子(しのだ せつこ)
『女たちのジハード』 (2000年;保険会社、男性優位社会の中で自分の道を切り開く)
高殿 円(たかどの まどか)
『トッカン』(2010年;税務署員)
『上流階級』 (2013年;デパート外商員)
平 安寿子(たいら あすこ)
『くうねるところすむところ』(2008年;工務店
『こっちへお入り』(2010年;仕事と落語)
瀧羽 麻子(たきわ あさこ)
『株式会社ネバーラ北関東支社』(2011年;自信の喪失と転職)
原田 マハ(はらだ まは)
『本日は、お日柄もよく』(2010年;スピーチライター、スピーチ力)
『楽園のカンヴァス』(2012年;美術館)
『風のマジム』(2014年;起業、ラム酒づくり)