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『シューカツ!』 - マスコミ合格を目標に掲げた学生7人の挑戦

3月1日、来春大学を卒業する学生に向けた企業説明会が「解禁」されました。就職活動の本格始動です。そこで、今回から、五回にわたって、「就職活動を考える作品」を紹介します。実社会への窓口となる就職活動。それは、それまでもっぱら「消費者」として経済活動を行ってきた学生たちがモノやサービスといった商品の「生産者」にもなるという大きな転換点となります。経済小説の一環として「就職活動を考える作品」を紹介するのは、そのような理由からでもあります。

就職活動を円滑に行うためのノウハウ・スキルを解説した「シューカツ本」は、たくさん出版されています。そうした本にも良さがあるわけですが、就職活動で最も大切な部分である「学生たちの生の声と行動」を理解していくには、むしろ「小説・物語」の形の方が学生たちの心情により迫れるのではないかと考えています。

「就職活動を考える作品」の第一弾は、石田衣良『シューカツ!』(文藝春秋、2008年)。です。最難関のマスコミ合格を目標に掲げた大学三年生7人の就職活動が描かれています。

 

[おもしろさ] 就活生にとっての格好の激励本

学力のみならず、コミュニケーション力とか人間力とか、自分だけではどうにも判断できない要素が無数に絡んでくるのが、就活のむずかしいところ。また、採用数は景気にも左右され、当人の努力だけでは、どうにもならない運が関わってきます。この本が書かれたのは、依然として就職氷河期を完全には脱し切っていない時期。「売り手市場」と称される昨今の事情とはやや趣を異にしますが、「就活の難しさ」「就活生の終わりのない不安」「就活についてのおおまかな流れ」「就活を構成する課題ごとの実態と対策」がよくわかる作品に仕上げられています。就活生が知りたいことがほぼ網羅されています。格好の激励本でもあります。大いに参考になるでしょう。就活について確実に言えるのは、いろいろな課題をクリアすることによって、学生たちが徐々に実社会にアクセスしていけることです。就活とは、学生たちにとっては、「初めてぶつかる実社会の壁」。それに伴う不安の数々も、学生たちを成長させてくれる起爆剤にもなりえることを、この本は教えてくれます。

 

[あらすじ] 学生たちのそれぞれの不安と活動と結果

主人公は、鷲田大学三年生の水越千晴。いよいよ就活がスタートする季節が到来しました。不安とあせりで、胸がいっぱいの千晴。そこで、彼女を含めた7名の仲間(男4名、女3名)が、「シューカツプロジェクトチーム」を結成。お互いに情報交換をしたり、サポートしたりしながら、最難関であるマスコミ合格をめざして活動を開始します。彼らは、どちらかというと「優等生」。しかし、たとえ「優等生」と称され、就職活動に対する意欲が高い学生であっても、悩みの大きさはけっして軽いわけではありません。みんな、なにをどうやればよいのかわからないという状態からのスタートでした。

 

シューカツ! (文春文庫)

シューカツ! (文春文庫)