経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『あの子が欲しい』 - 採用する側にも悩みと不安があるのです

「就職活動に役立つ作品」の第四弾は、朝比奈あすか『あの子が欲しい』(講談社、2015年)。『シューカツ!』『就活の神さま』『フリーター、家を買う』の三冊はすべて、就活する方の立場から書かれたものでした。他方、ネット時代の就活を描いた本書は、学生を採用する側の立場で、その内幕を書いた作品なのです。新入社員の採用に携わっている人事担当者のみならず、就活生にとっても役立つ内容になっています。採用担当者の作戦・思惑・不安・悩み・考え方などをしっかりと理解するということもまた、「就活という戦い」を乗り切るための重要な要素になるのではないでしょうか。

 

[おもしろさ] 採用側の作戦・思惑・悩み・不安がリアルに描写

就職活動というと、どうしても就活生のことばかりが焦点になりがちですが、採用する側にとっても、取りたい新入社員を採用することは大問題。とりわけ、知名度のそれほど高くない企業にとって、その成否は経営の根幹にかかわる死活問題なのです。この本に出てくる中堅のIT企業にとっても、計画通りの人員を採用することは会社の将来を左右する最重要課題です。そのために、スタッフと資金を投入して、あの手この手の作戦を展開します。この本の魅力は、そうした採用側の作戦・思惑・悩み・不安をリアルの描き切った点です。ネット上の書き込みに関して、会社側寄りの発言を行う「工作員」の活用や、ラストに近い場面で用意されている採用担当者と採用予定者の駆け引きなど、おもしろい場面がたくさん用意されています。

 

[あらすじ] 採用担当者・川俣志帆子のプレッシャーと心意気

舞台は株式会社クレイズ・ドットコム。来年度採用プロジェクトのリーダーに指名されたのは川俣志帆子。昨年度に付与されたブラック企業の汚名を返上するために奮闘します。彼女の心意気を一言で表現しますと、「『キツそう』とか『無理』とか舐めたことを言ってる学生が他社を選ぶ分には、何も惜しいことはない。でも、本当にクレイズで成長し、クレイズを成長させたいって思っている学生は逃さない。そういう子を見つけ出して、何がなんでも採る」。では、どのような作戦と戦略が駆使されるのでしょうか? また、重いプレッシャーを背負わされた志帆子の密かなストレス解消手段として「猫カフェ」が登場し、そこにいたザビエルという名の猫を購入するのですが……。欲しかった学生と欲しかった猫。その真価はどのようなものだったのでしょうか? 

 

あの子が欲しい (講談社文庫)

あの子が欲しい (講談社文庫)