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『代理人』 - 将来を含めて選手を本気で守る辣腕代理人とは? 

プロ野球を扱った作品」の第二弾は、本城雅人『代理人(エージェント)』(実業之日本社、2017年)。代理人とは、選手と球団との交渉を手助けする者のこと。アメリカの場合、代理人制度は1970年代には定着し、20~30人の選手と契約している代理人もいるようです。それに対して、日本で導入されたのは、2000年のこと。いまだ定着が進んだとは言えないのが現状です。この本で登場する代理人の活躍は、必ずしも一般化できるものではないものの、今後のプロ野球のあり方を考える場合に重要となる問題提起とコンテンツが含まれています。球界の内幕を知り尽くした元新聞記者だからこそ描ける世界が、そこにあります。

 

[おもしろさ] 新しい代理人像が提起されている! 

マスコミなどでしばしば取り上げられるニュースに、人気プロ野球選手の契約更新に関する話題があります。これまでは、さっと聞き流していたかもしれないあなたも、もし本書を読めば、そして契約更新のための交渉の裏で、選手の利益を守るために、代理人がこれほどまでの努力を積み重ねていることを知れば、契約交渉の風景が大いに変わってしまうことでしょう。とはいえ、日本の代理人は、交渉の手伝いをするだけなのですが、海外の代理人のなかには、トレーニングコーチ、理学療法士、メンタルトレーナー、選手の希望によっては税理士や資産運用者まで用意する者もいるのです。この本に登場する代理人は、いわば海外型の代理人に近い存在と言えるでしょう。代理人は、クライアントの立場に立って、球団との契約更新の交渉に臨みます。その際の根拠となる資料の揃え方は、半端ではありません。また、選手が酷使されれば、球団に起用法を注意し、使う気がない場合は、トレードを要求します。本書の読みどころは、そうした「選手を本気で守ってやる代理人」の姿=代理人の未来像を提起している点にあります。

 

[あらすじ] 選手の全生活をサポートする代理人とは? 

主人公は、プロ野球選手と代理人契約を結んでいる弁護士の善場圭一。その手数料は年俸の5パーセントです。メディアに「ゼニバ」と揶揄される彼は、チーム成績・観客動員・グッズの売り上げへの貢献度などを示した資料を提示し、金銭面での執拗な条件闘争を選手の立場に立って行う代理人なのです。それだけではありません。練習方法や生活態度などもアドバイスして選手の価値を高めていきます。その結果、彼のクライアント選手はみんな活躍するのです。選手が出場しているゲームはすべて自分の目で確認し、なにを考えていたのかまで理解しようとします。限度とも言える三人の選手としか契約しないのは、そのためです。クライアントとの間で一番大事にしているのは、互いの信頼。信頼できる少数の選手と代理人契約を結び、結んだ選手には徹底して価値を高めていく。それが善場のやり方です。そんな膳場が、選手の暴行、ケガや違法な賭け事への関与、女性問題などに関連したさまざまなトラブルを解決していきます。

 

代理人

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