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『輝跡』 - プロ野球選手の光と影を女性の視点から描く

プロ野球を扱った作品」の第三弾は、柴田よしき『輝跡(きせき)』(講談社、2010年)。「カープ女子」「オリ姫」「ハム女」といった言葉に示されているように、女性のプロ野球ファンが増えています。大のプロ野球ファンである著者の手によるこの本は、プロ野球選手の光と影を見事に描き出しています。

 

[おもしろさ] プロ野球選手の多様なリアルを女性の目線で

数万人の観客の目の前で、好プレーを演出し、拍手喝さいを浴びる選手の姿。多くの人たちにとって、プロ野球選手は、まさに憧れの職業。しかし、なるのがむずかしく、たとえなれても、きわめて不安定な職業でもあるのです。大活躍している選手でも、けがでその後の人生設計が一挙に破たんする可能性さえ持っているのです。また、30歳半ばにでもなれば、多くの職場では一人前に活躍できる年頃であるにもかかわらず、プロ野球選手としては、すでに若い年代とは言えません。身体の状態にもよりますが、引退を覚悟して、その後に備える必要が出てくるのです。このように、プロ野球選手の誕生・活躍・引退というそれぞれのステップにおいては、常にさまざまなリスクとの鉢合わせがあり、彼らを取り巻く女性たち(初恋の人、愛人、妻、ファン)との関係も、そうしたリスクに翻弄されていくことになるわけです。この本は、そうした多様な姿を、選手を取り巻く女性たちの目線から描写した異色作なのです。

 

[あらすじ] 夢を追い続ける男と魅せられていく女性たち

中学生のころから逸材と言われて、全国の甲子園常連校から誘いがあった北澤宏太。当然、野球進学するものと思われていたのですが、母親が癌に倒れたことで、一旦は野球を断念します。しかし、もう一度夢を追いかけ、四国の独立リーグに所属して最多勝利投手に。東京オリオンズ育成ドラフトで一位指名を受け、二軍での試合に出場。そこでも活躍し、ついに年俸7000万円で、チームの中心選手の一人になっていきます。女性には大変モテたとはいえ、宏太はまっすぐで、不器用な男性。弁解の言葉ひとつ言えないのです。好きになった女性とは、ことごとく別れてしまいます。初恋の相手となった穂波、のちに「先輩選手の妻」となる雪菜、『BASEBALL SEASON』の編集長になった美潮、妻となる女子アナの茉莉……。彼女たちとの出会いと別れが綴られていきます。

 

輝跡 (文春文庫)

輝跡 (文春文庫)