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『フルタイムライフ』 - 女性新入社員が初めて経験する「はたらく生活」

4月1日、今年もまた、数多くの新入社員が、希望を胸に社会人としての第一歩を踏み出します。反面、どのような服を着て出勤すればよいのかといったことから、どのようにして新しい職場や仕事に慣れていけばよいのかといったことまで、不安や心配事もまた多いのではないでしょうか。それらを短期間で一挙に解消してしまおうと、あせる必要はまったくありません。仕事をしながら、徐々に対応していけばよいのです。そのようなとき、小説を読むことで、自分とは少し異なった登場人物の生き方を疑似体験することが参考になり得るものです。そこで、三回に分けて、「新入社員を応援する作品」を紹介します。

「新入社員を応援する作品」の第一弾は、柴崎友香『フルタイムライフ』(マガジンハウス、2005年)です。新入社員の目に写った「初めての会社の姿」が鮮明に描かれていきます。

 

[おもしろさ] 女性新入社員の目に移った「おっちゃんの社会」

この本の特色は、入社したばかりの女性社員が経験する「会社での初めて」をみずみずしいタッチで描き出した点にあります。春子が受けた会社の第一印象は、会社とは「おっちゃんの社会」というものでした。彼女は言います。「おもしろいで。会社。おっちゃんばっかりで、ほんまにコピーしたりお茶入れたりするねん。なんか、まだ、そういう役をやってみてるって感じ」と。そもそも、いままで知っているおっちゃんって、「親と学校の先生と前のバイト先の店長ぐらい」でしかなかったのが、いきなり「おじさん」のなかに交じって働くようになったのです。「けど、思ったより楽しいで。知らんことばっかりやから、勉強になるし」と、彼女の気持ちは前向きです。「確かに、学生の時に想像していたよりも、実際に会社に入ってみるとそんなに忙しくなくてお金を貰えて、それにレポートやバイトもないから遊ぶ時間がかえって増えたように思うこともあった」という感想も。

 

[あらすじ] 働き始めてから10ケ月間に、徐々に変化が

美術系の大学のデザイン科を卒業したものの、ごく普通の事務職として採用された新入社員の喜多川春子22歳。大阪の心斎橋にあるその会社は、食品の包装をする機械を製造しています。彼女の担当は、社内報と広報。それほど忙しい部署ではありません。それでも、会社での生活は、まさに驚きと緊張と戸惑いの連続です。シュレッダーやコピー機でさえ、どのように使いこなせばいいのか。戸惑ってしまいます。働き始めて10ケ月、少しずつ新入社員の域を脱し、一人前の社会人になっていくことに。

 

フルタイムライフ (河出文庫)

フルタイムライフ (河出文庫)