「先端技術を扱った作品」の第二弾は、幸田真音『人工知能』(PHP研究所、2019年)です。第一弾として紹介した『小説EV戦争』は、「電気自動車という次世代自動車の開発」を扱った作品でしたが、自動車をめぐるパラダイムシフトには、もうひとつの構成領域として「自動運転車の開発」があるのです。完成すれば、「車というよりも、走るロボット」に近い存在になりそうですね。
[おもしろさ] 自動運転車の可能性とリスク
自動運転車の実証実験は、すでに世界の各地で行われています。今後ますます増加していく高齢者の移動手段、運転手不足をカバーできる手段、地方での過疎化に対応した輸送手段として、自動運転車の開発には、大きな期待がかけられています。反面、運転中に事故を起こすリスクは、大きな懸念材料になっています。事実、海外では自動運転車による死亡事故が起きています。この本でも、「自動運転車が暴走し、人を撥ねる」というシーンが登場するのです。では、そうしたメリットとデメリットを併せ持った自動運転車について、どのように考えていけばよいのでしょうか? 本書の魅力は、AI(人工知能)を搭載した自動運転車の功罪(可能性とリスク)に真正面から切り込んでいること。また、少年時代には悪さばかりしていた主人公の新谷凱が人工知能と出会い、AI技術者として成長していく道のりもまた、読み応えのある内容に富んだもので、本書のもうひとつの魅力になっています。
[あらすじ] 不良少年が優秀なAI技術者に成長していく紆余曲折
新谷凱は、行き当たりばったりで毎日を過ごしてきましたが、大学で、コンピューター・サイエンスや人工知能に興味を持ち始めます。卒業後、「株式会社エッジ」という老舗の電気機器メーカーに就職し、「おしゃべりをする掃除機」の開発に邁進。ところが、上司と衝突して短期間で辞職。大学時代に出会った教員の外池光二が3年前に興した、人工知能を専門にしているスタッフを集めたベンチャー企業・株式会社AMTに入社。ここで大いに鍛えられるとともに、AIに関する見識を広げ、なによりも仕事のおもしろさを発見するのです。そんなとき、実証実験をしていた自動運転車が暴走して、けが人を出します。AI技術者としての意見を求められた凱は、「人が人工知能を洗脳する」可能性を示唆するのです。そして、これを契機に、事件の背景となる謎を解き明かしていきます。