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『おカネの教室』 - 中学生が「おカネの世界」と出会うとき

4月9日、政府は、1万円札、5千円札、千円札のデザインを一新すると発表しました。実際に印刷されるのは5年後の2024年度。しかし、偽造対策の強化、新紙幣をつくる技術の継承、経済効果など、紙幣一新のニュースは、いろいろな角度からメディアで取り上げられました。では、おカネっていったいどのようなものなのでしょうか? そこで、「おカネを題材にした作品」を四回にわたって紹介し、おカネについて考えてみます。

「おカネを題材にした作品」の第一弾は、高井浩章『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』(インプレス、2018年)。経済記者の著者が自分の娘にむけて、おカネや世の中の仕組み・カラクリをわかりやすい言葉でつづった小説がベースになっています。経済小説とは、「世の中と仕事とお金と暮らし」を素材にした小説のこと。定義にピッタリの作品と言えるでしょう。

 

[おもしろさ] 中学生にとっては未知の領域がわかりやすく

おカネの仕組みがわかりやすく解説されている点が、本書の最大の魅力です。例えば、生涯賃金、利子、株式、仕事、リーマンショック市場経済国内総生産GDP)、生活保護、福祉、質屋、市場の失敗、所得格差、相続税、オフショアなど、ほとんどの中学生にとっては未知の領域。しかし、そうした用語の意味するところが優しい言葉で解説されていきます。経済のことをあまり知らない人には、格好の入門書となります。他方、よく知っている人にも、このような「説明の仕方」があるのかと感心させられる好著です。

 

[あらすじ] 経済のことを少しずつ考え始めた二人の中学生

木戸隼人は、ごく普通の中学2年生。ちょっとした巡りあわせで「そろばん勘定クラブ」という名前のクラブに入ります。ただ、それは「そろばん」を教えるクラブではなく、「そろばん勘定」、つまり「損得」というおカネの物差しで物事を見極めようというクラブ。毎週月曜日の6時間目に行われます。もうひとりの生徒は、町一番の大富豪の娘である福島乙女。家業である金貸し業やパチンコ屋のビジネスに対して嫌悪感を持っています。そして、顧問は、2メートルを超す長身の男性・江守。謎の人物なのです。クラブの活動は、彼が週に1回、二人の生徒に話をしたり、宿題について議論をしたり、一緒に見学に行ったりする形で、進められていきます。江守先生が出した最初の問題は、「あなたのお値段、おいくらですか?」というもの。いろいろな質問が提起され、それについて、二人の中学2年生が考えていくことにあります。

 

おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密 (しごとのわ)

おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密 (しごとのわ)