「おカネを題材にした作品」の第四弾は、永瀬隼介『特捜投資家』(ダイヤモンド社、2018年)です。なにものにも動じない冷静な判断力を身に着けた個人投資家が大悪人に熾烈な戦いを挑む姿を描いています。
[おもしろさ] 地検特捜部に代わって、不正企業を叩く個人投資家
この本のユニークさは、倫理観がマヒ状態にある昨今、地検特捜部に代わって、不正企業を叩き潰すなかで、自らも大胆におカネを稼ごうとする辣腕の個人投資家という着眼点です。そうした設定を具体化するために、本書では、二人のお金持ちを登場させています。いずれも、おカネを稼ぐようになったのは、幼い頃に経験した過酷な境遇から出発しています。城隆一郎の金銭哲学は、「カネと自由は同義だ。カネさえあれば、上意下達の愚かな組織に属することも、間抜けな他人に頭を下げる必要もない。おれは本物の自由が欲しいからカネを稼ぐ」というもの。他方、大賀武蔵は、「カネさえあればこの世に不可能なことはない」と信じています。二人とも、莫大なおカネを稼いだという点では共通しているものの、金儲けのやり方は大きく異なっています。この本の魅力は、メンタルはワイヤーのように強靭で、なにものにも動じない冷静な判断力を身に着けている城の、大悪党に熱い戦いを挑む姿にあります。
[あらすじ] ハラハラドキドキを演出する四人の人物
物語は、主に四名の人物を軸にして展開していきます。一人目は、山三証券を経て、アメリカの巨大投資銀行でファンドマネージャーとして活躍し、帰国後は個人投資家として活動している大富豪の個人投資家・城隆一郎。本書の主人公です。小学4年生のとき、父親が事業に失敗し、ヤクザの非情な追い込みに耐え切れず、クルマで崖からダイブするのも見て、「絶対に父親みたいにならない。とことんカネを稼いでやる」と誓った46歳の男です。二人目は、元社会部記者で、フリーのジャーナリストに転身したものの、カツカツの耐乏生活を送っている有馬浩介35歳。三人目は、東大卒で山三証券に入社し、幹部候補生として期待されたのですが、同社の破たんによって、いまは学習塾を経営するかたわら、「エンジェル投資家」になる夢を持っている兵頭圭吾。四人目は、幼い頃に、借金で自殺した父親の姿を目の当たりにし、「まるで呼吸するようにカネを稼ぐことだけを考え、生きてきた」大悪党の大賀武蔵。話の流れをシンプルにまとめますと、城が有馬と兵頭の力を利用しつつ、大賀に戦いを挑むという筋書きになります。そのプロセス自体ハラハラドキドキの連続と言えるでしょう。