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『水族館ガール』 - あなたが見ている水槽の向こう側の世界! 

「遊園地・娯楽施設を扱った作品」の第四弾は、木宮条太郎『水族館ガール』(実業之日本社文庫、2014年)です。水族館で働く人の業務を描いたお仕事小説。あなたが見ている水槽の向こう側の世界、水族館の舞台裏にも光が当てられていきます。『水族館ガール』シリーズは、すでに5巻まで刊行されています。2016年6月からNHK「ドラマ10」において、松岡茉優さんと桐谷健太さんのダブル主演でドラマされた『水族館ガール』の原作。

 

[おもしろさ] 知られざる水族館の特性に迫れる本

遊園地では、すべての施設がいわば人為的なコントロール下におかれます。来園者に対するサービスは、もっぱらスタッフの意欲によって、そのレベルを維持することができます。それに対して、水族館では、施設とスタッフの間に、動物が介在します。したがって、動物の生態・習性を知り尽くしたスタッフでないと、サービスのレベルが維持されにくくなるのです。例えば、イルカのジャンプは、観客を魅了します。ところが、「他者の命令を喜んで聞くという動物」ではなく、「遊び好きで気まぐれな」動物であるイルカにとって、ジャンプはただの遊びでしかありません「イルカの遊び気分」をうまいタイミングで「観客への披露」につなげていくことができる場合、つまりトレーナーがイルカに「遊ばれる」場合のみ、見事な「イルカショー」が成立するのです。イルカの飼育係という仕事には、イルカの「遊び相手」になれるかどうかといった、理屈では理解しにくいむずかしさがあるのです。また、遊興による客寄せを優先させるのか、それとも飼育生物の健康を優先するのかという難題もあります。

 

[あらすじ] いきなりイルカの飼育担当になった由香

市役所観光事業課に勤め始めて3年たった嶋由香は、突然、外郭団体が運営する市立水族館「アクアパーク」への出向を命じられます。しかも、事務ではなく、イルカ課という現場の仕事。新しい職場では、右も左もわかりません。職員たちが話している言葉さえわからないのです。そのうえ、配属先の職場には、無愛想な先輩・梶良平がいました。「お前の仕事は一つ。俺達の邪魔にならないようにしながら、少し離れた場所で、ひたすらイルカを観測する。それ以外はしなくていい」というのが、由香に対する梶のスタンス。そのような環境におかれた由香ですが、イルカに「遊ばれる」ところがあったのかもしれません。水族館の仕事を少しずつ覚え、その過程で失敗したり、悩んだりしながら、自分の仕事の役割と水族館の存在意義を知っていくことになります。

 

水族館ガール (実業之日本社文庫)

水族館ガール (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール2 (実業之日本社文庫)

水族館ガール2 (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール3 (実業之日本社文庫)

水族館ガール3 (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール4 (実業之日本社文庫)

水族館ガール4 (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール5 (実業之日本社文庫)

水族館ガール5 (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール6 (実業之日本社文庫)

水族館ガール6 (実業之日本社文庫)

 
水族館ガール7 (実業之日本社文庫)

水族館ガール7 (実業之日本社文庫)