月曜日午後10時、4月15日からテレビ東京系でドラマBiz『スパイラル~町工場の軌跡~』が放映されています。玉木宏さんが、企業再生家でマジテック専務取締役の芝野健夫として毎回、熱演されています。ご覧になっている方も多いのではないでしょうか。舞台は、日本の「ものづくり」を支えている中小零細工場、いわゆる町工場です。彼らの「たゆまぬ努力」と「我慢強さ」が、ものづくり大国を支えています。しかし、経営者・従業員の高齢化、労働力不足、親会社からの部品価格の引き下げ要求、最近の米中貿易戦争など、町工場をめぐる状況には厳しいものがあります。そこで、「町工場を扱った作品」を三回に分けて紹介します。
「町工場を扱った作品」の第一弾は、上述のテレビドラマの原作である真山仁『ハゲタカ外伝 スパイラル』(ダイヤモンド社、2015年)です。「ハゲタカ外伝」という名称に示されるように、本書は「ハゲタカシリーズ」のサイドストーリーで、2007~08年における大阪の町工場の再生を描いています。
[おもしろさ] 町工場の課題を通して未来を展望できる
町工場に必要なこととは、課題を明確にし、解決しながら、「チャレンジ精神」と現実直視という、ときには二律背反する思考のバランスをどのようにとっていくのかという点に尽きるのではないでしょうか。町工場が抱えている課題をマジテックに照らし合わせてみていくことにしましょう。一つ目は、大手メーカーによる「激烈な下請けいじめ」に伴うコストカット。二つ目は、他社を圧倒する独自な商品開発とそのための資金調達や商品の普及。この本では、寝たりきりの生活を余儀なくされていた「先天性多発性関節拘縮症」という病を持つ子のために開発された「マジテック・ガード」と名付けられた自立補助器の開発とそれに関する生命保険会社との連携の話が登場します。三つ目は、多くの特許を有しているものの、技術継承ができる人材がいないために、強みを生かせていないことです。そうした課題への取り組みを通して、町工場の未来を考えていくことができるコンテンツになっている点が、本書の魅力となっています。
[あらすじ] 「発明は人の笑顔のために」という考え方を胸に
1986年、三葉銀行船場支店に勤める芝野健夫は、東大阪の町工場「なにわのエンジン社」とマジテックの創業者であり、発明家でもある工学博士・藤村登喜男と出会います。彼こそ、芝野が企業再生家(ターンアラウンド・マネージャー)として歩むきっかけを作ってくれた人でした。同じ年、ジャズクラブでピアノを弾いていた鷲津政彦は、藤村からニューヨークに行くために金百万円を受け取ります。その「投資」は、鷲津にとって「初めてのハイリスク・ハイリターンなディール」だったのです。2007年、芝野は、総合電機メーカーのCRO(最高事業再構築責任者)兼専務として活躍しつつも、そろそろ自分の役割の終焉を感じていました。そのとき、藤村登喜男の訃報に接します。芝野は、曙電機の職を辞して、社長である藤村の妻浅子と芝野を含め総勢5名のマジテックに転職。その理由としては、曙電機での仕事に自分なりの区切りをつけられたという感触と藤村に対する「恩返し」という気持ちがあったことと同時に、企業再生家としての「血が騒ぐ」ことを挙げることができます。後に、藤村博士を尊敬し、アメリカで研鑽した秀才で、ロボット開発を夢見る久万田五郎が入社します。「発明は人の笑顔のためにやる」という藤村の遺志・考え方を胸に秘めながら、芝野を筆頭に社員たちが奮闘します。しかし、博士の技術継承ができる後継者探し、クライアントからの締め付け、浪花信用金庫の村尾浩一(芝野の三葉銀行時代の部下)の「復讐劇」や外資による乗っ取り工作など、次から次へと、問題が山積みされていきます。