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『わたし、型屋の社長になります』 - 孤高で堅牢、繊細で美しいもの。その名は金型! 

「町工場を扱った作品」の第二弾は、上野歩『わたし、型屋の社長になります』(小学館文庫、2015年)です。OLだった花丘明希子(29歳)が、父親が経営していた樹脂金型の受注工場である、従業員30名ほどの花丘製作所の社長に就任。町工場の厳しい現実と向き合うなかで、金型の魅力にも惹かれていきます。

 

[おもしろさ] 金型がありとあらゆるものをつくりだす! 

「日本のモノづくりは、金型産業でもっている」。そのように言われても、ピンとくる人は、それほど多くはないかもしれませんね。でも、「スマホの外側のケースも、ボタンも、この中に詰まっている電子部品も、テレビも、パソコンも、大きいものなら自動車のボディだって、ありとあらゆるものが金型から」できているといった説明を聞くと、かなり納得させられるのではないでしょうか。それだけではありません。日本だけではなく、「世界の30%の金型は日本企業でつくられている」と言われています。金属であれプラスチックであれ、「世界中の製品の中に組み込まれる部品の多くが日本の金型からできている」といっても、けっして大げさではないのです。モノづくりのなかで、金型産業の担い手である「型屋」の役割と実態を浮き彫りにした点に、本書のユニークさが凝縮されています。

 

[あらすじ] 次第に金型と工場の魅力に取りつかれていくアッコ

大手広告代理店ダイコク通信社に勤務する花丘明希子(通称アッコ)。東京の下町、墨田区吾嬬町にある花丘製作所の社長をしている父親の誠一が脳出血で入院することに。後遺症が残る父に代わって、明希子は社長になります。売り上げの8割を占める得意先の自動車会社のリコール騒ぎのために受注がストップするという悪条件に加えて、銀行からの借金の返済要求やベテランの営業部長の他社への引き抜きで五人が辞職するという事態に見舞われます。そうした厳しい環境の下、アッコ社長のアクションがスタート。「頑固で孤高。無口で堅牢。そうかと思うと繊細で、そして美しい。けっして人の言いなりにならず、我が道を往く」という金型。その魅力に魅了され、またスタッフたちに深い愛着を感じ始めたアッコのもと、花丘製作所は徐々に変わっていくのです。

 

わたし、型屋の社長になります (小学館文庫)

わたし、型屋の社長になります (小学館文庫)