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『屈折率』 - 男は女の愛情を受けることでガラス工場の再生に挑んだ! 

「町工場を扱った作品」の第三弾は、佐々木譲『屈折率』(光文社、2018年)。東京・大田区のガラス工場でのものづくりを描いています。また、その町工場を舞台に、「経営者の男性」と「ガラス工芸作家の女性」が、「屈折率」という言葉を使って、それぞれにどのように影響を与え合ったのかについて描写されています。

 

[おもしろさ] 三つの処方箋を駆使して経営を立て直せ! 

町工場が生き残っていくための施策、さらに言えば日本の製造業がとるべく道は、よく挙げられるように、市場を海外に求めること、業態をハイテク化すること、得意な分野に特化することの三点です。そうした点を念頭に置いて、主人公である安積啓二郎の再建のための方策のひとつひとつを見ていくと、より興味深く読み込んでいけることでしょう! 

 

[あらすじ] 売り払うつもりが、再建に喜びを見出した社長

かつてやり手の商社マンであった安積啓二郎(44歳)は、事業に失敗し、6年間経営していた小さな貿易会社の清算を決意します。そんな折、叔父の安積徹治から、体調を崩した兄の耕一郎に代わって、経営が傾き始めた実家の町工場・安積ガラス工業(従業員21名)の社長になってほしいと頼まれます。工場がある大田区の一帯は、日本の製造業の底辺部を構成する小規模・零細規模工場の密集地であり、製造技術の巨大な集積地です。ガラスというものにまったく関心がなかった啓二郎は、工場を売り払うつもりで、社長になることを引き受けます。ところが、工場の一角を夜間の仕事場として活用していたガラス工芸作家の野見山透子(31歳)との出会いを通じて、ガラスの魅力に引き寄せられていきます。そして、啓二郎は、透子に恋心を抱きつつ、好きになったガラスをつくっている工場の再建を「自分の喜び」として感じられるようになっていくのです。

 

屈折率 (光文社文庫)

屈折率 (光文社文庫)