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『学・経・年・不問』 - 高度成長期におけるセールスマンの実像

「営業部員を扱った作品」の第三弾は、城山三郎『学・経・年・不問』(文春文庫、1976年)。商品をたくさん売れば、多くのコミッションが入るものの、固定給は極めて少ない。「学問・経験・年齢が問われない」セールスの世界が描かれています。セールスのコツ・ノウハウやセールスマンのメンタリティを扱った古典的な経済小説の作品と言えます。セールスのやり方にも、「変わるもの」と「変わらないもの」があるようですね。

 

[おもしろさ] 「せっかち型」と「ノンビリ型」に込められた意味は

本書のおもしろさは、高度成長期におけるセールスマンの実態を浮き彫りにしている点です。「キドニタテカケセシ」とは、かつて高度成長の時代に、セールスにふさわしい話題と考えられていました。キは季節、ドは道楽、ニはニュース、タは旅、テは天候、カは賭けごと、ケは健康、セはセックス、シは趣味のこと。「セックス」のように、いまでは合致しないものも含まれていますが、「ベットではなく、ベットのある生活を売る」、「セールスは断られたときから、はじまる」というように、いまでもセールスマンが参考にできるコンテンツや考え方がたくさん盛り込まれています。また、「せっかち型」と「ノンビリ型」。まったく異なった性格の両名が、ともに優秀な成績を残すというストーリーも、興味深いものになっています。そこに込められている著者のメッセージとは? 「世の中の人間は程度の差こそあれ、のろ足・勇み足の二種に大別される」という指摘を考慮しますと、著者は、人はみんなそれぞれ自分にあったやり方で地道に努力すれば、おのずから道が開けてくると述べていると考えることができます。

 

[あらすじ] 性格が正反対のセールスマンがそれぞれのやり方で

本書の主人公は、かつて高校の同級生であった、性格のまったく違う二人のセールスマン。年は30歳。伊地岡勇は、高校卒業後証券会社に入り、それなりに出世をするものの、推奨株が激落して、ベットのセールスマンになります。何事も先へ先へと考える、いわば猛烈型。他方、野呂久作は、大学を五年かけて卒業した後、中堅の電機会社に入社。しかし、会社が傾いたことで、伊地岡の薦めを受け、同じ会社のセールスマンに。野呂の方は、人一倍のんびりしており、すべてがゆっくりペース。なにが起きても動じません。すでに、優秀な成績を上げていた伊地岡は、時間を惜しんで「一軒でも多く訪問せよ」と、野呂にいろいろなアドバイスを行います。が、野呂の方は、行動する前に、まずセールスの本を何冊も読み、訪問先のドアのノブに恐れをなしたために、ノブの収集を行うといった具合です。やがて、二人は、それぞれのやり方で販売成績を上げていくことになります。

 

学・経・年・不問 (文春文庫)

学・経・年・不問 (文春文庫)