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『もしアドラーが上司だったら』 - 成績不振の営業マンが「イケてる営業マン」に

「営業部員を扱った作品」の第四弾は、小倉広『もしアドラーが上司だったら』(プレジデント社、2017年)です。アルフレッド・アドラーの心理学をビジネスの現場、「企業組織における対人関係」へ応用するという意図のもとに書かれた、営業マンの成長物語。

 

[おもしろさ] 営業マンを成長させる二つのキーワードとは? 

著者によれば、アドラーの心理学の骨格となるのは、「勇気」と「共同体感覚」という二つのキーワード。「勇気」については、「人は、勇気があれば、困難を克服しようと、努力や学習、協調など『有益な』行動を選択し、勇気が欠乏すると、困難から逃げだし、より安易な道、他人への攻撃や他者のせいにする言い訳、さらには人間関係や困難からの逃避など『無益』な行動を選択する」と説明されています。「共同体感覚」とは、「周囲の人々へ貢献したい」という考えや行動を意味しています。この二つのシンプルなキーワードを軸にして、さらにはより具体的な多くのアドバイスを受け止めながら、若い営業マンが成長していくプロセスを描いた点に、この本のユニークさがあると言えるでしょう。

 

[あらすじ] アドラー心理学に心酔したドラさんが上司になった

もうすぐ30歳になる広告代理店営業マンのリョウ君。成績不振で悩む毎日。そこに、アメリカの大学院でアドラーの心理学を学んできたドラさんが、新課長としてやってきます。ドラさんのアドバイスを「ドラさん語録」として、その一部を紹介しておきましょう。①「できているところ」に注目する。「できていないところ」は注目しない。②自分を責めることがやる気を高める方法だと信じていたが、それは自分のやる気を奪うだけ。③「営業成績が悪い人間は人間としてダメな存在、劣った存在だ」と自分で自分の人格まで否定するのは、間違いだ。ありのままの自分を受け止める。④一日一つ、毎日誰かを喜ばすんだ。勇気づけの声をかけてもいい。仕事を手伝ってもいい。笑顔を向けてもいい。感謝の言葉を伝えてもいい。そのようなドラさんのアドバイスを受け止め、実践することで、営業成績はぐんぐん上がり、リョウ君は「イケてる営業マン」の道へと方向転換することに。

 

もしアドラーが上司だったら

もしアドラーが上司だったら