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『当選請負人』 - 候補者だけでは戦えないという「無数のワケ」

7月4日、第25回参議院選挙が公示されました。21日の投開票に向けて、激しい選挙戦が行われています。そうした選挙戦でなくてはならない存在になっているお仕事があります。それは、選挙当選請負人、選挙プランナー、選挙コンサルタントなどと称されているものです。彼らは、総合的な戦略の立案からポスターや看板の制作や演説の仕方まで、さまざまなアドバイスやサポートを行っているのです。彼らの動きを見てみると、選挙戦の環境整備は、公示前にはほぼ完了していることもわかってくるかもしれませんね。そこで、選挙当選請負人を扱った作品を二つ紹介します。これまでとはまた異なった視点で選挙戦を見ることができるでしょう。

「選挙当選請負人を扱った作品」の第一弾は、渡辺容子『当選請負人 千堂タマキ』(小学館文庫、2014年)です。

 

[おもしろさ] 選挙戦の戦略から演説のやり方に至るまで

「表情が硬すぎる」「もっとインパクトのある話題で口火を切り、のっけから通行人の関心を引きつけなきゃダメだ」「選挙に出る人間なら、右手はどんなときも空けておかなきゃ」「手のひらを温めるために、使い捨てカイロを」「現職の批判に終始するのではなく、建設的な政策提言にバージョンアップするんです」「どういう未来を描くかが重要」…。本書を読むと、確かに候補者の「判断と経験」だけでは選挙戦には勝てないと思わされてしまいます。本書の魅力は、選挙プランナー=当選請負人の活動を「なるほど」と思わせるタッチで描き切っている点です。もちろん、そうした演説中の顔の表情やマイクの持ち方に対する細かいチェックだけではありません。演説原稿の執筆、キャッチフレーズの策定、ポスターのチェック、ボランティアの確保や配置から選挙戦の戦略、さらにはトータルコーディネートに至るまで、選挙プランナーのパワーはあらゆる局面に反映されていきます。

 

[あらすじ] 当選百パーセントを誇る超売れっ子の選挙プランナー

55社を受けたものの、一社も内定が取れず、落ち込んでいた阿部まりあ。近所の洋風居酒屋で偶然出会った千堂タマキに誘われ、「報酬はないが、これまでに味わったことのない刺激的な十日間をプレゼント」するという言葉に乗って、里和市(人口23万人。東京・横浜のベッドタウン)で実施される市長選挙のボランティアをすることに。無所属で二度目の挑戦となる鈴木眞寿候補(41歳)の依頼を受けたタマキは、めざましい働きを見せるものの、難題が続出。鈴木候補、再選を狙う現職市長の辛島平三郎のほかにも、元キャバクラ嬢・鈴木マコトが出馬を決めたことで、混戦模様に。「当選百パーセントを誇る超売れっ子の選挙プランナー。政治家の間では知らぬ者はいない、勝利の女神」と称されているタマキ。三つ巴の戦いを制して、鈴木を当選させることができるのでしょうか? 彼女のお手並みを拝見しましょう。

 

当選請負人 千堂タマキ (小学館文庫)

当選請負人 千堂タマキ (小学館文庫)