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『ルーズヴェルト・ゲーム』 - 「8対7という大逆転劇」! 

「企業スポーツを扱った作品」の第二弾は、第一弾と同様に池井戸潤の作品で、『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社、2012年)です。リーマンショックに伴う不況の最中、多くの企業が自社の企業スポーツチームを続々と休廃部するという事態が生じました。この本は、そうした時代背景のもと、実業団の名門・青島製作所野球部を舞台に、社会人野球の光と影を描写しています。野球を愛した、アメリカのルーズヴェルト大統領によると、「一番おもしろい試合は8対7だ」そうです。その意味は、点を取り合った末に、最後は勝利を収めるといったところでしょうか。2014年4月27日にスタートしたTBS日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』の原作本です。唐沢寿明さんや檀れいさんが出演しました。ご記憶のある方もおられることでしょう。

 

[おもしろさ] 社会人野球:チームづくりのおもしろさとむずかしさ

この本の魅力は、「社員が愛してやまない」という社会人野球のチームづくりのおもしろさとむずかしさ(いまでは、選手の多くは契約社員で構成されている。また、才能のある選手はプロ野球に取られてしまうので、制約を受けざるを得ない)、加えてオーナー企業の業績いかんではいつでも廃部の危機に直面するというその危うさを見事に描写していること。そして、苦境に陥った青島製作所(年商500億円の中堅メーカー)の生き残りに全力投球する社長が考え出した起死回生のドラマと、同野球部のやはり生き残りを模索するハラハラの展開が、「8対7という大逆転劇」に至るまでパラレルに追跡されていることです。「8対7という大逆転劇=ルーズヴェルト・ゲーム」の中身とは、いったい? 

 

[あらすじ] 「よくもこれだけの悪材料が揃ったな」という逆境

低迷を続けていた青島製作所野球部は、ライバル企業のミツワ電器に村野三郎監督およびエースと四番打者という主力選手が移籍したことで、創部以来の危機に直面します。同社の総務部長であり、野球部長でもある三上文夫は、野球部を存続させるために奮闘。他方、創業者である青島毅会長より社長に抜擢されて間もない細川充は、不況に立ち向かうため、聖域なきリストラを命じます。そして、「かつては社員の娯楽であり、会社の象徴であった」とはいえ、年間3億円弱の経費がかかっている野球部も廃部の対象と考えます。「社員の給与を減らしておきながら、片や野球部で三億円遣っていたのでは示しがつきません」「三億円をねん出するには、本業で30億円の売り上げが必要」になるからというわけです。四面楚歌の下、「頑張れ、期待している」という青島会長の鶴の一声でかろうじて存続してきたのが、野球部の実情なのです。それでも、昨年まで高校野球の監督をしていた大道を招き、データを重視した新しいチーム作りがスタートすることになります。

 

ルーズヴェルト・ゲーム (講談社文庫)

ルーズヴェルト・ゲーム (講談社文庫)