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『ツアコン!』 - 「いつだって、真心こめたおもてなし」の大変さ

7月も下旬になると、夏休みの過ごし方が話題になることが増えてくるのではないでしょうか。旅行の準備はすでに終えている人が多いかもしれません。とはいえ、新聞・雑誌・ネット上は、夏休みやお盆休みを利用した旅行プランの広告で賑わっています。そして、多くの人が旅行・観光を楽しむことになりますと、当然のことながら、それらを支える人たちが不可欠に。旅行の楽しさやおもてなしを演出してくれる、それらの人たちには、それぞれの仕事にそくした「苦労と大変さ」があるものです。そこで、その実態を探るべく、五回にわたって、「旅行・観光を支える人たちを扱った作品」を紹介したいと思います。

「旅行・観光を扱った作品」の第一弾は、旅行会社を舞台にしたお仕事小説、相戸結衣『ツアコン!』(宝島社文庫、2014年)です。旅にはつきもののトラブル。それらを未然に防いだり、問題が発生した場合は、被害を最小限に食い止めたりするのが旅行スタッフの仕事。新人ツアーコンダクターの活躍と成長が描かれています。

 

[おもしろさ] 旅行商品を開発するときの大切な視点

観光スポット・資源が少ないところでは、観光業は成り立ちにくいのでしょうか? この本の魅力は、そのような疑問に答えるヒントを与えてくれることです。オーロラであれ、流氷であれ、現地の人には当たり前のこと。元来は「なんでこんなものが見たいの?」といった感覚のものだったわけです。旅行商品を開発するには、「そばにあるはずなのに気づかなかったもの」を探し、商品に仕立て上げることが大切なのです。

 

[あらすじ] ツアコンの極意を堪能できる

入社3年目の香月南の勤務先は、仙台を拠点にした「けやきツーリストグループ」という中堅の旅行会社。仙台駅東口にある同社の「けやきラウンジ」というちょっと風変わりな小規模オフィスで働いています。そこは、「地元を元気に!」というキャッチフレーズで、現地受け入れ型のツアーを中心に業務を展開。彼女は、アートトラック(デコレーション・トラック)の愛好者のツアー、婚活ツアー、被災地めぐりツアーなどを通して、ツアコンの極意を学んでいきます。そんな折、アラブ首長国連邦にあるドバイの富裕層の一族、総勢106人がやってくることに。彼らは、世界一周旅行をしている最中。雪を見たくなり、急遽、仙台に立ち寄ることになったのです。準備の時間はたった3日! 

 

ツアコン! (宝島社文庫『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)

ツアコン! (宝島社文庫『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)