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『ある日、アヒルバス』 - ごく普通のバスガイドの「愛すべきお仕事」

「旅行・観光を扱った作品」の第二弾は、バスガイドの日常的な仕事をユーモアたっぷりに描写した、山本幸久『ある日、アヒルバス』(実業之日本社文庫、2010年)です。観光バスに乗る客に対するバスガイドの心がけや心の動きが浮き彫りにされています。2015年7月~8月、NHKBSプレミアムにおいて、藤原紀香さん主演で放映された『ある日、アヒルバス』の原作。

 

[おもしろさ] 楽しいかと訊かれて、はいとは明言できないけれど

多くの人にとって、仕事とは、嫌なことが山ほどあって、グチをこぼしたくなることもいっぱい。しかし、やるべきことには、きちんと取り組む。トラブルが起きれば、懸命に対応する。笑いや涙を伴いながらも、毎日がアッという間に過ぎていく。それがごく普通の人のお仕事ではないでしょうか。「仕事が楽しいかと訊かれ、胸を張って、はい、と答えられる自信はない。ではバスガイドをやめて、べつの仕事がしたいかと訊かれたら、それは、いいえ、と答える」のが主人公の高松秀子。本書の特色は、そうしたごく普通のバスガイドの仕事ぶりを「温かい目線」で描いている点にほかなりません。

 

[あらすじ] バスガイドさんって、いろいろなことをやるんですね

通称デコこと、高松秀子は、アヒルバス(大型12台、中型5台、計17台のバスがある)に入社して5年目の観光バスガイド。あこがれてなったわけではないが、与えられた仕事はきちんとこなすという真っ当な感覚の持ち主。日々遭遇するさまざまなツアー客を楽しませるために奮闘したり、わがままなツアー客に振り回されたり、いきなり新人研修の教育係になったりと、多忙な毎日を送っています。やがて、女が働ける環境になっていないアヒルバスを改革しようという動きが起こります。

 

ある日、アヒルバス (実業之日本社文庫)

ある日、アヒルバス (実業之日本社文庫)