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『あぽやん』 - 空港でのトラブル解決、お任せください

「旅行・観光を扱った作品」の第四弾は、新野剛志『あぽやん』(文藝春秋、2008年)です。タイトルにある「あぽやん」とは、「あぽ」(APO)=「空港」(Airport)という略語に由来する旅行業界用語。空港で働く旅行会社のスタッフを意味しています。本書は、あぽやんの実情と成長を描いたお仕事小説です。この『あぽやん』刊行後、『恋する空港 あぽやん2』『迷える空港 あぽやん3』が出版されています。また、2013年1月~3月に、TBSで放映されたドラマ『あぽやん~走る国際空港』の原作本。伊藤淳史さんや桐谷美玲さんが出演されました。

 

[おもしろさ] 日陰の部門で、働きがいを見出すには? 

会社という組織のなかには、スポットライトによって照らされる花形部門があれば、あまり注目されない日陰の部門もあります。仕事をやるにあたって、前者の場合は、高いモチベーションが得られやすいのに対し、後者の場合は、仕事に対する情熱が薄れがちになってしまいます。旅行会社を引き合いに出せば、華々しい企画を担当するセクションが前者に相当するのに対して、華やかそうなイメージとは裏腹に、成田空港支所は後者に属すると考えられています。空港で働き、旅行者のさまざまなトラブルに対処するスタッフには、いつも元気ハツラツという気持ちでは頑張りにくいところがあるようです。旅行者と直に接するという意味では、最前線の業務といっても、「金を生まない現場を軽視する」風潮があるためなのです。この本は、「いくら頑張っても、はなから期待されていない部署では、まともに評価されるはずはない」あぽやんたちが、どのようにして、仕事の喜びを見出し、さらにはモチベーションを持ち続けることができるのかを示唆してくれる好著です。

 

[あらすじ] 「笑顔で出発してもらう」という業務に誇りを

遠藤慶太(29歳)は、入社して8年も経っているのに、未だに融通が利かないと、言われることが多い人物。そのせいか、大航ツーリストでは、陽の当たる部署である本社の企画課から陽の当たらない部署である成田空港支所に飛ばされます。あぽやんの業務は、とにもかくにも旅行者のありとあらゆるトラブルに解決策を見出し、円滑な旅行をサポートすることに尽きます。再入国許可を取得しない日系人(このまま出国すると、ふたたび入国できなくなってしまう)、絶対に出発しようとしない老婦人、予約が消えて出発できない新婚夫婦など……。理屈はどうであれ、トラブルを解決することが最優先される現場。なんとかやり遂げたあとに、思わずこぼれる慶太の笑顔。懸命に取り組み、精いっぱい支援しているうちに、「笑顔で出発してもらう」というあぽやんの業務に誇りを感じるようになっていきます。

 

あぽやん (文春文庫)

あぽやん (文春文庫)

 
恋する空港 あぽやん2 (文春文庫)

恋する空港 あぽやん2 (文春文庫)

 
迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)

迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)