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『カンパニー』 - 世界的なダンサーが作り出す「異次元の世界」

「俳優を扱った作品」の第三弾は、伊吹有喜『カンパニー』(新潮社、2017年)。カンパニーとは、バレエ団のこと。職場で自分の存在価値を見失いそうになっている二人の人物を通して、バレエの魅力とダンサーの心の内が描かれています。

 

[おもしろさ] 踊れなくなった時の不安は底なし沼のごとし

この本のおもしろさは、なんといっても、バレエの魅力を堪能できる点。身体の動きだけで観客の目と心を奪い、喜びや悲しみ・絶望を伝え、架空の世界を体験させる。そして、「舞台と客席の呼吸が奇蹟のように合わさった、神々しい時間……。何かが降りてくる感じ。客席を巻き込んで一体となる感じ」。ただ、そのような「神々しい時間」を毎回、確実に作り出せるのは、超一流のダンサーに限られています。本書では、そうした世界の第一線で活躍するダンサー高野悠の心の内について言及されています。レッスンとトレーニングに明け暮れる毎日。ストイックで孤独な時間の連続。しかし、一番大きな苦悩は、そういうものではありません。真摯に、丁寧に身体を取り扱っていても、加齢とそこから生まれる身体の故障からは逃げられないという事実なのです。踊るのをやめたら、どうなるのか。踊れない自分に価値があるのか。それを考え出すと、怖くなるのです。

 

[あらすじ] バレエの公演、幕が下りるまでの紆余曲折

老舗製薬会社「有明フード&ファーマシューティカルズ(旧名:有明製薬)」の改革路線から取り残された47歳の総務課長・青柳誠一。ある日、上司の脇坂英一取締役から「バレエ団(カンパニー)に出向しろ!」という社命が。そして、「努力、情熱、仲間」の三つがそろえば必ず勝てると信じていた、同社の若手トレーナーの瀬川由衣。担当していたマラソン選手に電撃引退され、途方に暮れていました。そんな二人に業務命令が。それは、敷島バレエ団と協力し、世界的なプリンシパルの高野悠の冠公演『白鳥の湖』を成功させることでした。しかし、高野の腰は、踊れないわけではないものの、『白鳥の湖』全幕を主役として踊りきる自信がないという状態になっていたのです。青柳と瀬川に託されたミッションには、公演内容の変更、高野の反乱、売れ残ったチケットなど、多くの試練が待ち受けていました。

 

カンパニー

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