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『声のお仕事』 - アニメや声優が好きな人にはたまらないお仕事小説

「俳優を扱った作品」の第四弾は、川端裕人『声のお仕事』(文藝春秋、2016年)です。人気があり、身近に感じてはいるが、知らないことの多い声優の世界を描いたお仕事小説。アニメファンの目には、まさに「アイドル」である声優の核心に迫ります。

 

[おもしろさ] ちょっとミステリアスな「アニメの裏舞台」で

本書のユニークさは、アニメを見ていただけではわからない、声優というちょっとミステリアスな「アニメの裏舞台」を浮き彫りにしてくれる「最初の作品」と言える点です。声優たちの役作りのための情熱と努力、事務所との関係、その仕事の醍醐味、アニメの収録現場、アルバイトとの両立など、いずれも臨場感あふれるタッチで浮き彫りにされています。

 

[あらすじ] 声で「世界を明るくしたり、楽しくしたりできる!」

学生時代に素人演劇に出演していた自分を見て、「声の仕事が向いている」と、クマさんこと、熊倉敏弥に声をかけられた結城勇気。いまは、クマさんが専務をしている事務所に属し、運河を前に大声で発声練習を繰り返している彼。20代後半になるものの、これまで目立った実績がありません。カフェでアルバイトをしながら、駆け出しの声優稼業をやっています。「声で世界を変える」という、威勢の良い「目標」がある反面、「自分が限り無くダメなヤツ」と思い込んでいます。そんな彼に、高校球児の夏を描いた人気の「胸アツ」野球マンガ『センターライン』アニメ化のオーディションに参加するという大きなチャンスがやってきました。幸運にもレギュラーの座を射止めるのですが、それは「柴犬サブ」という犬の役でした。同世代の人気声優で加持原ミツル役の大島啓吾、大宮薫役の椎野遥香、安達カズキ役の平川信策といた仲間たちとの交流のなかで「仕事の神髄」を見出していきます。声で「世界を明るくしたり、楽しくしたりできる!」と。

 

声のお仕事 (文春文庫)

声のお仕事 (文春文庫)