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『東京カジノパラダイス』 - ビジネスの視点からカジノを見ると

「カジノを扱った作品」の第二弾は、楡周平『東京カジノパラダイス』(新潮文庫、2018年)です。カジノをあくまでビジネスの視点で見るとどのようなものになるのかを追求した作品です。原題は、2016年に新潮社から刊行された『ラストフロンティア』。先進国でカジノがない日本は、いわばラストフロンティアという意味が込められています。

 

[おもしろさ] カジノに求められる「日本の独自性」! 

日本でも話題になっているカジノを含む「統合型リゾート( IR )」の開業。が、カジノ自体は、世界では別に珍しいものではありません。しかし、日本でもカジノを開設するのであれば、やはり日本独自のコンテンツが不可欠になるのでは。それなくしては、きっと失敗に終わってしまう。本書の魅力は、そのような問題意識から出発している点です。そして、富裕層が求める「刺激とスリル」というニーズにどのように対応するのかという視点で、あくまでもビジネスとしてのカジノのあり方を追求し、抵抗する人たちに抗して、実にユニークな「日本的カジノ」を実現させていくところにあります。さらに、パチンコや公営ギャンブルの実態や、そこで甘い汁を吸う官僚たちへの批判、マネーロンダリングのリスクなどについても、興味津々の言及がなされています。

 

[あらすじ] 「飛びっ切りの屑」だからこそ思いつく仰天企画とは? 

東京はお台場で、カジノ計画が動き始めました。大手商社を異性問題による不祥事で辞めた杉田義英35歳。世界中でカジノを運営し、お台場カジノの運営権を獲得したカイザー社に転職します。「飛びっ切りの屑」が欲しいと人材あっせん会社に依頼し、杉田の採用を決めたのは、プロジェクトマネージャーを務めるデニス・オリバー。「欲望と興奮を掻き立てられる」人物ということで、杉田に期待したのです。ジャパニーズカジノを成功させる秘訣は、「飲む・打つ・買う」と確信した杉田。カジノの収益の8割近くを占めることになる世界の超VIPがおカネを落とす夢のカジノを実現させるべく、オリバーの秘書である切れ者の柏木梗香32歳とともに動きます。その結果、日本的個性を打ち出すため、なんと「丁半賭博」といった型破りの作戦を展開させるのです。ところが、運営の許認可権を掌握しているのは、法律遵守、前例主義に凝り固まった関係各省庁の出向者で構成される寄り合い所帯のカジノ事業室の面々だったのです。

 

東京カジノパラダイス (新潮文庫)

東京カジノパラダイス (新潮文庫)