9月17日から10月1日まで、「食欲の秋」に因み、料理・食を扱った作品を5つ紹介しました。「食欲の秋」の次は、「芸術の秋」です。そこで、美術・絵画にまつわる作品を紹介していきます。経済小説を素材に「絵画を扱った作品」を解説するとなると、どのような切り口があるのでしょうか? 絵画に関わる人たちを挙げていきましょう。まず「絵画を生産する人=画家・絵師」が浮上します。次に、絵の経年劣化に伴い、「絵画を修復する人=修復士」、さらには、「絵画を収集する人=コレクター」、「絵画の売買に関わる人=画廊・画商」、「絵画を展示する人=美術館のキュレーター(学芸員)」などが関わってきます。
「絵画を扱った作品」の第一弾は、原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮文庫、2014年)。 アンリ・ルソーという画家、伝説のコレクターであるコンラート・バイラー、ルソーの研究者である早川織絵とティム・ブラウン(名門美術館であるニューヨーク近代美術館の花形キュレーター)、美術館で特別展などを企画・実施する新聞社の文化事業部など、美術を取り巻く「世界」の諸相を浮き彫りにした作品です。名画には、「見る者の心を奪う決定的な何か」が宿っています。画家の情熱・思い・声・動きが閉じ込められています。たとえ「何百回見ても、その都度いつも新しい発見がある」ようです。しかも、それらが幾世紀にもわたって鑑賞する人の心に共鳴し続けるのです。そうした名画の奥深さが余すところなく描かれています。
[おもしろさ] 名画に秘められた驚愕の「真実」とは?
1910年に極貧のなかで病死したアンリ・ルソー。生存中は、ピカソを除いて、まっとうに評価する評論家や芸術家がほとんどいませんでした。彼の晩年の代表作である『夢』という作品に酷似した『夢をみた』。その真贋の鑑定を求められたのが、早川織絵とティム・ブラウン。1983年のことです。より優れた評価を下した者には、その絵を自由に取り扱う権利が与えられるという。第一印象で贋作と言い切った織絵に対して、ティムの判定は「真作」。ただし、依頼主の要望は、二人が7章からなる物語を読み、7日後に最終的な判断を下すというものでした。その依頼に、巧妙に仕掛けられた悪党どもの企みが隠されていたことも、物語を一層おもしろいものに仕立てあげています。二人の最終的な判断はいかなるものになるのでしょうか? その絵に秘められた驚愕の「真実」とは? ティムと織絵に託された依頼の裏に潜んでいる謀略とは? そして、17年の時空を超えた二人の恋の行方は? 興味の尽きない物語の展開に、ハラハラドキドキの連続となるでしょう。
[あらすじ] 画家ルソーをこよなく愛した二人の出会い
かつては美術史の論壇を賑わせ、アンリ・ルソーの研究において屈指の業績を上げた早川織絵。しかし、16年前に真絵を出産したあと、日本に帰り、大原美術館の監視員として暮らしています。43歳のいま、気に入った絵のなかに込められた画家の思いと対峙し、充実した日々を過ごしています。2000年のある日のこと、ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターであるティム・ブラウンから破格の提案が寄せられます。それはまた、1983年以来の二人の再会を引き寄せる契機だったのです。