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『写楽 閉じた国の幻』 - 「写楽探し」の常識を根底から覆す大胆な仮説

「絵画を扱った作品」の第二弾は、島田荘司写楽 閉じた国の幻』(上下巻、新潮文庫、2013年)です。江戸時代に生まれた絵師・浮世絵師と言えば、葛飾北斎歌川広重喜多川歌麿東洲斎写楽などの名前が浮かび上がります。そのなかで、写楽は、生没年不詳で、謎だらけ人物として知られています。それゆえ、阿波藩の能役者である斎藤十郎兵衛説が有力な説となってはいるものの、諸説があるようです。本書は、「写楽探し」の常識を根底から覆すある大胆な仮説を提示しています。それは、なんと! 

 

[おもしろさ] 写楽をめぐる不思議の数々

写楽が活動した時期は、1794年5月から翌95年1月までのたったの10ケ月。まったく知られていなかったにもかかわらず、新人絵師の発掘に熟達した出版元の蔦屋重三郎によって非常に優遇される。彼が描いた役者の顔は、ほかの絵師が描くどの絵とも異なり、ほとんどからかったような辛辣な表現で、むしろ醜男・醜女に描かれている。作品以外に存在したという痕跡さえ残されていない。歌舞伎を初めて見た人の驚きに満ちている。とすれば、当時江戸に滞在した外国人が写楽だったのではないのか。数々の疑問を抱いた主人公が、一枚の肉筆画のコピーに触発され、何度も何度も壁にぶつかりながらも「とんでもない仮説」を導き出していくところに、本書のユニークさが凝縮されています。

 

[あらすじ] 長くて、おもしろくて、ビックリ仰天の仮説構築

かつてN大学芸術学部で江戸美術を講じ、その後も日本浮世絵美術館の研究学芸員として葛飾北斎の研究に従事し、多少名が知られていた佐藤貞三。いまでも学習塾を営みながら、個人的に研究を続け、二冊目の上梓を狙っています。その彼は、一人息子が六本木ヒルズの電動回転ドア(オランダの企業によって技術開発された)に挟まれて事故死したことがきっかけとなり、かねてより疑問を抱いていた「写楽探し」をスタートさせることに。長くて、おもしろくて、ビックリ仰天の仮説構築の始まりです。

 

写楽 閉じた国の幻(上) (新潮文庫)

写楽 閉じた国の幻(上) (新潮文庫)

 
写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)

写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)