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『小説 新聞社販売局』 - 全国紙の元記者が抉り出した業界の悪習とは? 

「新聞を扱った作品」の第二弾は、幸田泉『小説 新聞社販売局』(講談社、2015年)です。新聞社の販売部から見た新聞販売の最前線と担当者の苦悩にズバリ踏み込んだ作品。また、かつては「儲かる商売」と言われた販売店と新聞社との間に横たわっている歴史的な「悪弊」の数々が俎上に載せられていきます。新聞販売というビジネスモデルの根幹が揺らいでいるのが理解できるのではないでしょうか。

 

[おもしろさ] 新聞社販売局と販売店の間には、このような問題が

本書のユニークさは、新聞業界の「内幕」をフィクションの形で浮かび上がらせている点に尽きます。戦前から、「部数は力、部数は命」をスローガンに新聞を普及させてきた新聞業界。読者を増やす努力をする一方で、読者の存在とは無関係に公称発行部数を水膨れさせる悪習が定着していました。その結果、販売店に無理やり買わせる、読者のいない「押し紙」「残紙」が横行していたのです。本書では、「公称部数の水増し」「押し紙」「大幅値引き」といった新聞業界の「闇」がそれなりの「合理的な説明・解釈」とともに抉り出されています。ただ、興味深く問題点を析出することには成功しているものの、問題の解決策が提示されていないのは残念……。

 

[あらすじ] 多くの販売店が苦境に陥っている! 

全国紙である大和新聞社に入社して15年となる節目の年、37歳の記者・神田亮一。彼の記事が編集局長の逆鱗に触れたことを契機に、「お前はもう記事を書かなくてもいい」と通告され、大阪本社の編集局から販売局販売推進部に異動。そこでの2年間は、苦情メモやチラシの作成、社内会議の書記など、新聞社に勤務しているだけの事務屋に過ぎない仕事に明け暮れていました。ある日のこと、神田は、それぞれに担当区を持ち、区内にある何十店もの新聞販売店の経営に責任を負う「担当員」になります。本来の仕事は、販売店を育てることなのですが、その業務を全うしている担当員など、まったくいないのが実情。仕事を通じて、神田は、新聞を読まない家庭の増加、新聞広告の減少、「折り込み広告収入の減少」、新規契約の獲得のための「仁義なき競争」などから、多くの販売店が苦境に陥っているという現実を目の当たりにします。と同時に、新聞社と販売店の間で以前から行われてきたさまざまな「悪習」を知ることに。

 

小説 新聞社販売局

小説 新聞社販売局