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『毎日が日曜日』 - これからは毎日が日曜日。さて、どうする? 

定年制度が一般化しているわが国。自営業を除けば、働いている人の大半が遅かれ早かれ定年を迎えます。それは「第二の人生」の始まり。労働者にとっては、「最大にして最後のドラマ」と言えるかもしれません。会社や組織のしがらみから解放されます。自由に使える時間も増えることでしょう。他方、新しい「居場所」を見つけられるのか、どのように時間を過ごせばよいのか、いかにして生計を維持していけばよいのか、どのように健康を維持していくのかなど、さまざまな悩みや不安にもさいなまれることになります。今回は、男性の定年にまつわる多様な局面を扱った作品を五回にわたって取り上げてみます。「男性の」と述べたのは、「女性の定年」を扱った作品を、私自身はまだ読んでいないからです。2017年7月に、岸本裕紀子『定年女子』(集英社、2015年)をベースに、NHKで『定年女子』というドラマが放映され、女性の定年にもスポットライトがあてられました。今後は、女性の定年を扱った作品も刊行されるのではと予想しています。

「定年を扱った作品」の第一弾は、城山三郎『毎日が日曜日』(新潮文庫、1979年)です。最前線で奮闘する巨大商社の企業戦士を描いた『輸出』という中編小説の続編。主人公である沖直之と、9年先輩で元上司であった笹上丑松の十余年後の姿が描かれています。扱われているのは、商社マンとその家族のリアルな日常生活。が、「毎日が日曜日」というこの本のタイトルが流行語にもなったように、「定年後の生活」に切り込んだ作品として知られています。1977年にNHKで放映された『毎日が日曜日』(出演者は山内明さん、仲谷昇さん)の原作本でもあります。

 

[おもしろさ] 定年のビフォー・アフターの変化が鮮明に

「家も家族も、めちゃくちゃにして、輸出だ、輸出!」と、駈けずり回る商社マンの活躍ぶりを描いた作品としても興味深いのですが、本書の特色は、なによりも定年退職者の心情をリアルに浮き彫りにしている点です。定年退職を迎える笹上が言います。「やりたいことを気ままにやる。やりたくないことは、一切、やらない。たのしくないことには、見向きもしない」。退職後の収入確保のために貸店舗を4軒保有し、万全の体制を整えたはず。しかしながら、実際に退職してみると、まったく異次元の世界が見えてくるのも、また事実。「毎日が日曜日をもてあます気分出てきた」。自宅のマンションに戻った時に感じる「宙づりにでもなっている感じ。落ち着かない。いらだたしさ」。やがて、人に頼られ、重宝がられ、感謝される存在になることで、人生の目的と喜びを感じるようになっていきます。定年をめぐるビフォー・アフターの変化が鮮明に描き出されています。

 

[あらすじ] 9歳違いの二人の商社マンとその家族の生き様

長い海外での駐在の末、扶桑商事京都支店長として単身赴任することになる沖直之。時折京都にやってくる企業のトップや外国からのVIP(最重要客)の接待以外にこれといった仕事はありません。「毎日が日曜日」と言われるような不本意な閑職に追われたにもかかわらず、業務外の新しいプロジェクトに取り組みます。しかし、沖には、京都支店の閉鎖を円滑に行うようにという社命が下ります。その後、本社に呼び戻されたものの、それは部下が一人もいない雑用係りのようなポストでした。それでも企業戦士としての活動を再開する沖。一方、うだつの上がらない毎日を過ごし、定年退職を心待ちにしていた笹上丑松。57歳で定年を迎えた彼にとって、毎日の予定が白紙であることは実に爽快。ところが、そのように感じられたのは、最初のうちだけだったのです……。そうした二人の商社マンとその家族の生き様が描かれていきます。

 

毎日が日曜日 (新潮文庫)

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総会屋錦城 (新潮文庫)

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定年女子 これからの仕事、生活、やりたいこと (集英社文庫)

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