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『平成関東大震災』 - 地震との向き合い方、教えます! 

日本は、自然災害が非常に多い国のひとつです。太平洋プレート、フィリピンプレート、ユーラシアプレート、北米プレートがせめぎあうことで、大きな地震が起こる確率は非常に高いからです。毎年、勢力の強い台風が日本列島を通り、甚大な被害をもたらします。活火山は111もあり、噴火による被害も後を絶ちません。地震・台風・噴火などの自然災害は、多大な物質的な損害のみならず、精神的なダメージも人々に与え続けてきました。が、そこにはいつも、災害にもめげず、復興をめざそうとする力強い人々の行動がありました。今回は、「災害を扱った作品」を五つ紹介したいと思います。

「災害を扱った作品」の第一弾は、福井晴敏『平成関東大震災』(講談社文庫、2010年)です。「いつか来るとは知っていたが、今日来るとは思わなかった」というサブタイトル。突然襲われた大震災の到来に慌てふためき、混乱する等身大のサラリーマンの姿が浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] 「生き延びてさえいれば未来はある」

この本の特色は、①大震災がなぜ起こるのか、②発生時にどのような災厄に見舞われるのか、③どのように対処していけばよいのかといった、いわば地震との向き合い方が具体的に示されている点にあります。まずは、家族の無事を願いながら、生き延びるための主人公の行動が描写されていきます。次に、生存が確認されると、今度は「心のきしみ」が生じてくることにも言及されていきます。やっと購入したマイホームの喪失、勤務先の建物の崩落、火災保険に対する懸念、失業への不安など、「心の闇」が広がっていくのです。「現実は、いつでも予想以上に残酷です」が、「生き延びてさえいれば未来はある」ことを再確認できるのではないでしょうか。

 

[あらすじ] 大震災の渦中に遭遇する災厄の数々が

午後6時29分、新宿にある都庁のエレベーター内で突如として、「マグニチュード7.3、震度6強」の大震災に遭遇することとなった西谷久太郎42歳。家族に会いたい一心で、大混乱に陥った都内を横断して、墨田区にある築1年の自宅に向います。停電、交通マヒ、帰宅難民、建物の倒壊、商品の略奪、火災、流言など、次から次へと襲い掛かる災厄。傍で彼を励まし続ける謎の人物・甲斐節男。辛うじて自宅にたどり着いた彼が遭遇したものとは?