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『富士山噴火』 - そのときに起こる状況のシミュレーション! 

「災害を扱った作品」の第五弾は、高嶋哲夫『富士山噴火』(集英社、2015年)。富士山の大噴火がもたらす災害の様相が克明に描かれています。大噴火の結末に待ち受けている驚くべき富士山の新しい姿とは? 高嶋哲夫の作品を再度取り上げました。

 

[おもしろさ] 「止められない。ならば受け入れるしかない」

日本の活火山は111。世界でも有数の火山国です。近年では、桜島、箱根、口永良部島御嶽山などでの火山活動がニュースになっています。日本最大の活火山である富士山についても、頻度はきわめて限られていますが、人々の憶測や懸念が取り上げられることがあります。そのときの切り口としては、①噴火の予兆、②噴火の可能性、③噴火に伴う災害、④被害の範囲と噴火警戒レベル、⑤住民に対する避難指示のタイミングなどが挙げられます。本書の特色は、まさにそうした疑問に答える貴重な作品となっています。「火山噴火は地球の呼吸のようなもんだ。人間がいくら騒いでも止められない。ならば受け入れるしかない。そのために準備して被害を最小に抑える」。そんなセリフが、心に響きます。

 

[あらすじ] 「誰も思っていない」「思いたくもない」

かつて陸上自衛隊でヘリのパイロットをしていた新居見充52歳。東海・東南海・南海地震が連動して引き起こされた「平成南海トラフ地震」の際に、人命救助するものの、津波で妻と息子を失うことに。一人残された娘の奈美恵は、2年半前から東京の大学病院で医師として働いていますが、充と奈美恵は絶縁状態に。充は、悔恨の念に苦しみながらも、御殿場にある養護老人施設「ふがくの家」で働いています。そんな彼のもとに、富士山の噴火が近く、御殿場市は「全市民の非難が必要になる」という情報が届きます。しかし、「富士山が噴火するなんて誰も思っていない」「思いたくもない」というのが、多くの人の思いでした。そうした状況の下、新居見は、市役所、消防、警察、そして古巣の自衛隊を巻き込んで避難計画を動かしていきます。

 

富士山噴火 (集英社文庫)

富士山噴火 (集英社文庫)