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『百貨の魔法』 - 百貨店は一期一会の魔法の舞台! 

「百貨店を扱った作品」の第二弾は、村山早紀『百貨の魔法』(ポプラ社、2017年)です。百貨店は、お客様を笑顔に、そして幸せにするための「魔法の舞台」。倒産の危機に瀕した百貨店で、店を守ろう、地元に愛され続けようと懸命に努力する人たちの姿、さらには、百貨店の魅力がファンタスティックなタッチで描かれています。

 

[おもしろさ] もう一度百貨店の原点に立ち返ろう

「長く続く不況の中で、お互い同士が客を奪い合うだけではなく、薄利多売のスーパーや、アウトレットショップ、インターネット上の店々とも競い合わなくてはならなくなったのが、いまの百貨店だった。けれど、それら身軽で大規模な店と同じ土俵で戦っても、百貨店が勝てるはずもない」。そうした厳しい環境下であるにもかかわらず、人減らし、取引先の選別や切り捨て、従業員に対する手厚い福利厚生の削減といった、「痛みを伴う改革」を選ばないできたのが、本書で登場する星野百貨店の役員たち。そうした選択が時代遅れなものだと内心わかっていても、踏み切れなかったのです。むしろ、「文化を発信し、人類の幸福に寄与できる百貨店であることを誓う」という50年前に産声を上げた時の「社是」に立ち返ろうとしているのです。そのときの心意気とは、いかなるものなのでしょうか。「いらっしゃいませ、と迎えるそのお客様とは、二度とお会いできないかもしれない。けれど今のお客様の幸せを思って、心を込めて品々を選ぶお手伝いをし、最高の品物をお客様に手渡し、ありがとうございました、とお見送りする。無限の時の中の、それでもその一瞬にその方と出会う、品々を通して縁を持ったことに感謝しながら、お客様の幸福を祈る」。厳しい状況であるがゆえに、もう一度百貨店の原点を確認できる物語に出会うのもまた、良きことではないでしょうか。そのように感じさせてくれる作品です。

 

[あらすじ] 老舗の百貨店でそれぞれの立場でできること

架空の町・風早市にあり、市民に愛されている老舗の星野百貨店。苦境に陥り、「閉店が近い!」という噂が飛び交っています。しかし、「星野百貨店のために、そしてお客様のために、できることがあるとしたら」、できる限りのことを行っていこう。エレベーターガール、新人のコンシェルジュ、宝飾品売り場のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、創業者の一族などが、それぞれの立場で、デパートを守ろうと懸命に努力する姿が描かれていきます。

 

百貨の魔法

百貨の魔法