「百貨店を扱った作品」の第三弾は、高殿円『上流階級 富久丸百貨店外商部』(光文社、2013年)。百貨店でのショッピングと言えば、店舗における接客を通した買い物をイメージするのが一般的。ところが、売り場ではなく、直接顧客に販売するという形もあるのです。そこで活躍するのが外商員。本書は、バイトからたたき上げで富久丸百貨店芦屋川店外商部の外商員になった鮫島静緒の活躍を描いています。続編として、高殿円『上流階級 富久丸百貨店外商部Ⅱ』(光文社、2016年)が刊行されています。併せて読まれることをお薦めします。2015年1月16日にフジテレビで放映されたドラマ『上流階級~富久丸百貨店外商部~』(竹内結子さん主演、斎藤工さん出演)の原作。
[おもしろさ] 月1500万円というノルマをこなす外商員!
まず百貨店の中での外商部の位置づけを確認しておくと、「外商は百貨店の売り上げの三割以上を占める、実質百貨店の屋台骨なのです」。ひとりひとりのノルマは、半端ではありません。主人公のノルマは、なんと月1500万円。それだけのノルマをクリアするには、一般の店員とは異なった、特別ないろいろの配慮と行動が不可欠となるようですね。結婚、出産、葬式、七五三・成人式・就職などのお祝い事、リフォームをはじめとする衣食住全般にわたる、ゆりかごから墓場まで、いわゆる上流階級の生活を丸ごとサポートするのが、外商なのです。なんでも屋のサービスを行う、いわゆるプライベート・バンキングに似通ったサービスと言えるでしょう。「客を育てろ、というのが外商の鉄則。たとえまだ20代や30代であっても5年もすれば役職が替り給料も増え、つきあいの幅や公式のお招きもぐっと増える。そういうときこそ百貨店の外商部の出番」となるのです。本書は、そのような外商員という興味深いお仕事の流儀を徹底的に追求した力作です。
[あらすじ] お客様のわがままを「なんとかする」
高卒のごく平凡な女性・鮫島静緒は、30代半ばの苦労人。ノウハウのないところでしっかりと販売の実績を作り、富久丸百貨店で正社員になります。やがて、女の園ともいわれる百貨店のなかでただひとつ、男性ばかりの芦屋川店外商部に、唯一の女性として配属されることに。カリスマ外商員の葉鳥士朗の引退を控えて、それまでの顧客の一部を引き継ぐことになります。決して半端ではないノルマを達成するため、静緒の活躍がスタートします。「ルーペと手袋、サイズを測るメジャー、誕生日と命日を書き込んだ分厚い仕事手帳。腕の良い職人さんの連絡先を書いたアドレスと小型カメラ、それに眼鏡の洗浄キットは、静緒の外商七つ道具」。「出過ぎず、出しゃばらず、結果を出す」。お客様のわがままを「なんとかする」という静緒の必死のアクションが綴られていきます。