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『ビット・トレーダー』 - デイ・トレードの世界がビビッドに! 

「株を扱った作品」の第三弾は、樹林伸『ビット・トレーダー』(幻冬舎、2007年)。ジェットコースターのごとく急上昇と急下降を繰り返す株価の変動に翻弄される「デイ・トレーダー」の姿がリアルに再現されています。デイ・トレーダーとは、株を中長期的に保有するのではなく、分単位で売買し、利ザヤを稼ぐ者。投資・ビジネスというよりは、「博打やギャンブル」にも通じる、株が持っているもうひとつの側面がクローズアップされています。

 

[おもしろさ] 「一攫千金」と「破滅」が背中合わせ

本書の魅力は、ずばり「デイ・トレード」のノウハウが満載されていること! 「法則も指南書も役立たずである。頼れるのは、流れを読む直観と損切りを恐れぬ度胸、あとは運のみ」「一攫千金と破滅が背中合わせの世界」「魅力(魔力)・スリルと恍惚感!」「勝つには『買い』より『売り』のタイミングが大切といわれる。あまり欲をかかず、ある程度の利益を出した時点で売り抜けることができなければ必ず負ける」。デイ・トレーダーをめざす人には、悪しき実例や行うべきではない事例が盛り込まれていることを含めて、良き指南書となるでしょう! 

 

[あらすじ] 「表の顔」と「裏の顔」を演じ分ける主人公の悪夢

郊外に引っ越したことで、4年前に息子の勇太を東葉鉄道の電車の脱線事故で失った主人公の矢部恭一。彼自身はもちろんのこと、妻の涼子と長女の莢香もそれぞれに喪失感に苦しみ、家族の絆も崩壊の危機に瀕しています。そんな矢部には、外車ディーラーでのサラリーマン稼業という「表の顔」に加えて、「裏の顔」があります。それは、妻にも内緒で借りているマンションで、愛人を囲いつつ、素人ながらも株式投資に励む「デイ・トレーダー」としての顔。やがて、インサイダー情報をもとにしたカラ売りの失敗で、悪夢のごとき絶体絶命の危機に陥ります! 

 

ビット・トレーダー (幻冬舎文庫)

ビット・トレーダー (幻冬舎文庫)

  • 作者:樹林 伸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/04/10
  • メディア: 文庫