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『ブラック・ヴィーナス』 - 隠された「黒女神」のミッションとは! 

「株を扱った作品」の第四弾は、城山真一『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』(宝島社、2003年)。わずかな金さえあれば、どれだけでも金を増やすことができる「株の天才」。そのようにうわさされるのは、「黒女神」こと、二礼茜。銀行に見放された人物など、何らかの理由でお金に困っている依頼人に対して、株取引で増やしたお金を提供します。元銀行マンの百瀬良太を助手にしての、彼女の株投資の手法が浮き彫りにされていきます。2016年第14回『このミステリーがすごい』大賞・大賞受賞作。

 

[おもしろさ] 頼りになるのは入念な情報収集と投資勘

勝ち負けを繰り返しながら、選ばれし者たちが生き残っていくマーケットの世界。この本の読者は、黒女神が株取引で限られた期間内に利益を上げていく、「神業」のようなプロセスを、臨場感を持って楽しむことができます。入念な情報収集をベースにした彼女の手法は、株の変動を予測し、安く買って高く売るという基本的な動作を繰り返して儲けるというごく普通のパターン。ただし、投資というのは、「全勝なんてありえない。十戦で六勝できれば一流と呼ばれる世界」。彼女の強みは、相場だけではなく、自分の投資勘が今どんなコンディションなのかをしっかりと測ることができる点です。そのため、投資勘が上向いているときは依頼を受けるが、そうじゃないときは依頼を受けないようにしているのです。「負けるときは、目の前に亡霊が現れるの。亡霊に取りつかれるときには、何をしても勝てないから、何もしない。潮目が変わるまで動かない」。

 

[あらすじ] 困っている人を救済する黒女神の不思議さ

他行の優良企業の争奪に血眼になり、顧客のニーズに応えようとしないメガバンクの先輩たちの姿に失望し、退職した百瀬良太。石川県の金融行政を一手に司る「いしかわ金融調査部」が募集していた臨時職員の相談員として再就職します。ある日、零細企業の社長をやっている兄の正弘から「黒女神に金を工面してもらおうと思うのだが、信頼できるだろうか」という相談を受けることに。「金が必要な人間は、黒女神の提示する報酬や要求に誠実に応じれば、どれだけ高額であろうと希望した金額を必ず手に入れることができる。しかも返済は不要だという」。ただし、顧客にとって最も必要なもの(物、人、プライド、金)を要求するというのです。覚悟のない者には幸運は訪れないからです。結局、「欲しい金額と使い道」を説明し、「株を買うための種銭」として300万円を提供した正弘。1か月半が過ぎた頃、正弘は、黒女神から4000万円のお金を受け取ることに。そして、その代わり、良太は、黒女神が指示するときだけで構わないという条件で、助手を務めることになります。同じ頃、良太は、正規の公務員として採用され、苦情相談室から異動し、証券検査員になります。しかも、その上司である苦情相談室長の秀島史秋は、内閣金融局の意向で黒女神を追いかけている人物だったのです。顧客の金を預かり株投資を行うのは、役所に登録した業者しかできません。無登録での投資一任業務は、法律違反になりえたのです。最後に用意されている壮絶な経済バトルとは、いかなるものなのでしょうか?