「社会保障を扱った作品」の第二弾は、柚月裕子『パレートの誤算』(祥伝社、2014年)。社会保障の重要な一角を担う制度に、生活保護があります。この本は、生活保護の実態をリアルに描いた経済小説であるとともに、生活保護の最前線での激務を担うケースワーカーの仕事を描いたお仕事小説でもあります。ケースワーカーとは、生活保護受給者の住居を定期的に訪問し、就労などの支援を行う行政の担当者のこと。主に福祉事務所や市役所の生活保護担当者がその職を担っています。2020年3月からWOWOW「連続ドラマW」で、全5回にわたって放送予定。主演は橋本愛さん。増田貴久さんが出演。
[おもしろさ] ケースワーカーと生活保護受給者の微妙な距離感
生活保護受給日には、駅前のパチンコ店や場外馬券売り場が満員になるといった「マスコミ情報」。本書の特色は、そうした情報に同調し、生活保護受給者を羨んだり、批判したりする人が多いなか、ある種のモチベーションを保ちながら、生活保護受給者をサポートするケースワーカーの姿を描いている点にあります。なかには、上記のように、パチンコや競馬に支給されたお金をつぎ込む人がいるかもしれない。しかし、つつましく暮らしている人が大半。条件を満たし、申請が通れば、受け取る権利がある。定められた規定に則って決定した支給額を渡す。そのうえで、一日でも早く自立できるように協力する。それが、社会福祉課員の仕事なのです。と同時に、財政を圧迫されないように、受給者をできる限り増やさないようにすることもまた、求められるのです。このようなケースワーカーと生活保護受給者の微妙な距離感が描写されています。加えて、「国の制度に頼らなければならない事情を抱えている」人たちをリアルに描き出しているのも、この本のもうひとつの特色と言えるでしょう。
[あらすじ] 悩みながらも、きちんと仕事に向き合う聡美
人口20万人、瀬戸内海に面した街・津川市。今春、同市の福祉保健部社会福祉課に配属され、生活保護受給者のケアを担当することになった牧野聡美。「働かないで金をもらえるなんてうらやましい」という同僚の言葉に心の中で同意してしまう彼女。嫌悪感さえ抱いていたケースワーカーという職務に戸惑う聡美に対して、「やりがいのある仕事だ」と励ましてくれる先輩の山川亨。受給者からの信頼が厚く、仕事熱心な男性でした。ところが、その山川が、受給者たちが住むアパートで撲殺されます。彼の後を引き継いだ聡美の前に、いろいろな疑惑や知られざる一面が浮上します。