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『AI崩壊』 - AIに過度に依存しすぎると、このような事態が! 

「映画に因んだ作品」第二弾は、浜口論太郎『AI崩壊』(講談社文庫、2019年)。つい先日、1月31日に公開の『AI崩壊』(監督・脚本=入江悠、主演=大沢たかお、出演=賀来賢人広瀬アリス、岩田剛典)の小説版です。国民の健康・医療を支えるだけではなく、家電や自動車とも連動し、国民の生活全般が快適に行われることを役割としている医療AI(人工知能)の「のぞみ」。「第四のライフライン」となっているAIの近未来社会における「危うさ」を描いた作品。

 

[おもしろさ] 「透視」できる近未来の諸局面! 

この本の魅力は、AIという視点から2030年という近未来の社会の諸局面を「透視」できる点にほかなりません。例えば、自分で運転できる人が少ないほどに普及した自動運転車、ハエのように小さく、飛んでいることさえ気づかれない超小型ドローン、心臓が悪い人の体内で生命の維持に役立てられるペースメーカーなどが描かれています。しかし、AIがもたらすものがすべて、人間にとって良いことばかりとは言い切れません。本作品は、確実にやってくるように思われる未来社会の正負の両面を真正面に向き合う素材となる本と言えるでしょう。

 

[あらすじ] 国家的なインフラとなったAI。暴走の恐ろしさ! 

2030年の日本。超少子高齢化社会で、経済大国の面影など、もはや一切見当たらない状態です。AI産業に携わる一部の人間だけが大儲けし、格差は開く一方。国民の大半は貧しい生活を余儀なくされています。日本最大のAI企業であるHOPE社が管理・運用を行っている医療AI「のぞみ」は、世界中の医療論文やビッグデータをもとに自律学習し、創薬や医療の現場で活躍。「のぞみ」は、国民の八割強の膨大な個人情報を集積し、投薬、治療、体調管理までを担っていたのです。ところが、鉄壁であるはずのセキュリティが何者かの手によって破られ、「のぞみ」が暴走。AIに依存しすぎていた社会は大混乱に陥ります。ペースメーカーを付けた人が誤作動で死亡し、自動車同士の衝突が引き起こされます。そして、「のぞみ」がついに命の選択を始めることになるのです。止められるのは、天才的な科学者・桐生浩介のみ。「のぞみ」は、桐生が、7年前にAIを使って妻のガン細胞のみを破壊する分子標的治療薬を作るという意図で開発されたものでした。果たして、限られた時間内に、警察の追跡をかわしつつ、彼は、国民の命を守ることができるのか? AIは、本当に人を幸せにするのか? 

 

AI崩壊 (講談社文庫)

AI崩壊 (講談社文庫)