「税金を扱った作品」の第三弾は、佐藤弘幸『税金亡命』(ダイヤモンド社、2016年)。この本は、かつてアジア最大のタックスヘイブンとして煙たがられた香港とわが国を舞台に、国境を越えて脱税を図ろうとする脱税者、その手引きをする国税局のOB(国税OB)税理士、脱税を取り締まる国税局課税部資料調査課という三者の攻防劇を描いた作品です。著者は、税務署では調査できない困難事案を取り扱う部署である国税局課税部資料調査課出身。
[おもしろさ] 悪質な脱税者を支援する国税OB税理士の暗躍
「悪質な脱税者の数は、年々増加の一途をたどっており、その手口も複雑化している。取り締まれば取り締まるほど、新たな脱税スキームが生み出される。政府が手を打とうとすると、また新たな抜け道が掘り抜かれる。さらには、脱税スキームを入れ知恵する心ない税理士、そして国税OBも存在する」。本書の特色は、①脱税しようとする者、②それを手助けする者、③脱税を取り締まる者という三者の関係性を臨場感あふれるタッチで掘り下げていることです。ちなみに、この本では、①日本で産廃会社と不動産会社の社長を務めていた木戸勲こと朴勲、②国税OB税理士を抱え、強引な手口でビジネスを展開するMAC税理士法人代表の松嶋明楽(バブリーヒルズクラブを発足させ、1000人以上の会員に対して、投資情報を提供したり、香港での銀行口座の開設、香港投資ツアーを企画したりしている)と、香港でドラゴンキャピタルという投資ファンドを運営するエイミー・チャン(松嶋と提携して、ツアー参加者に自社の投資商品を買わせるように仕向け、そのコミッションを松嶋がオーナーとなっている現地法人「ウルトラリッチ社」に支払っている)、③国税局課税部資料調査課の面々が登場します。
[あらすじ] 困難を極める案件にも果敢に攻め込んでいく国税
香港国際空港に降り立った木戸42歳を出迎えたのは、4年前に松嶋が企画した香港投資ツアーで知り合ったエイミー。木戸の渡航目的は、これまでに日本から香港に持ち込んだキャッシュと運用で増やした資産の一部を再び日本に持ち込むこと。やり方を示唆したのはエイミー。木戸は、「ゲーム感覚」でキャッシュのハンドキャリーを試みようとします。彼は、香港の銀行にある口座から5000万円の日本円を引き出し、マカオのカジノに直行。そして帰国時、税関では、「カジノで大勝しました。税務署にはちゃんと所得税の申告をしますよ」という言葉で、簡単に抜け出すことに成功。税関と税務署は、縦割り行政で情報交換をしていないという国税OB税理士の言葉を信じ、税関にバレても問題はないだろうと考えていたのです。ところが、実際には、税関と国税局とのネットワークは機能しており、木戸に関する情報が国税の資料情報課主査に伝えられたのです。こうして、国境を越えた脱税工作に対する東京国税局課税第一部「情報トージツ」と脱税者(およびそれを支援したMAC税理士法人)との戦いの火ぶたが切って落とされました。国税の手の内を知る税理士法人が相手だけに、その戦いは困難を極めたのです……。