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『任侠書房』 - ヤクザが出版社を再建する?!

「出版社を扱った作品」の第三弾は、今野敏『任侠書房』(中公文庫、2007年)。ヤクザの阿岐本組が崩壊寸前の組織を再建する「任侠シリーズ」の第一作目『とせい』を改題したもの。ヤクザという「裏稼業」に生きる男たちの知恵や行動力が、出版社という「表社会」でも立派に役立つことを示すなかで、著者が訴えるものとは、なにか? 

 

[おもしろさ] 必死の考え、すぐに行動に移すという生き方

組織で仕事をする人の多くは、日常的な仕事の繰り返しに追われ、直面する問題を対処療法の視点で処理しています。そのため、新たな視点や発想がなかなか出てきません。また、たとえ妙案を思いついたとしても、実行したときの面倒な手続きなどを想像し、実行に移すことを躊躇してしまいがちになってしまっています。しかし、これでは、崖っぷちにある組織を再建できるはずがありません。この本のおもしろさは、倒産の危機に瀕した出版社の梅之木書房が抱える諸問題をヤクザの阿岐本組の面々が繰り出す斬新な発想と行動力によって見事に同社を再建していくというプロセスにあります。「ヤクザにとって一番大切なのはとにかく行動することだ。堅気がヤクザに勝てないのは必死に考えないからであり、すぐに行動しないからである」。もちろん、斬新な行動が常に功を奏するかどうかは、わかりません。しかし、「やらなければ何も変わりません」。それだけは確かなのです。

 

[あらすじ] 重症の出版社にメスを入れていく阿岐本組の面々

日村誠司がナンバーツーを務める阿岐本組は、今時めずらしい、任侠道をわきまえたヤクザ。ある日のこと、兄弟分の組から神田にある倒産寸前の出版社・梅之木書房の経営を引き受けることに。阿岐本雄蔵組長は、思い付きを実行に移さずにはおれない性格で、しかも文化人にあこがれているのです。役員として出社することになった日村たちは、一癖も二癖もある編集者たちと格闘をスタートさせます。週刊誌の『週刊プラム』、女性誌の『リンダ』、小説、実用書などの編集の責任者には、いずれも問題を解決できる能力と度量がありません。つぶれかけていた出版社を、素人の社長が再建できるはずがない」と言われるなか、阿岐本組は、任侠界における極秘情報の活用、思い切った人事異動、話題性の高い人物の抜擢などの施策を講じていきます。

 

任侠書房 (中公文庫)

任侠書房 (中公文庫)