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『おっさんたちの黄昏商店街』 - 高校生の斬新なアイデアからの始動

2020年3月8日(日)、昼食後にテレビをつけると、目に留まったのが日本テレビの番組『鬼の錬金マスター!』。シャッター商店街を舞台に、二人のカリスマ社長が「美容室」と「餃子店」をオープンさせ、1ケ月間の利益を競うというもの。番組がめざしたのは、ふたつの店のスタッフが一喜一憂しながら、いろいろな工夫を凝らして邁進する姿を追跡すること。背景にある問題意識は、シャッター通りと化した商店街の活性化のように思われます。さびれた商店街の復活・再生は、現在の日本が抱える大きな課題のひとつになっています。そこで、商店街の活性化にアイデアを提供することで起爆剤となる人物は誰かという点に注目して、それぞれで「高校生」「大学の教員と学生」「カリスマ性のある外部の者」が大きな役割を演じる三つの活性化物語を紹介していきます。

「商店街の活性化を扱った作品」の第一弾は、池永陽『おっさんたちの黄昏商店街』(潮出版社、2019年)です。商店街の活性化を描いた、優しさと涙がいっぱいの連作集。鈴蘭中央商店街から「昭和ときめき商店街」へと改名された商店街。しかし、その内実は、依然として「昭和黄昏商店街」。それを「ときめき商店街」にするには、どうすれば良いのか? 「斬新な高校生のアイデア力」と「商店主たちの行動力」がコラボする物語です。

 

[おもしろさ] コンセプトは「昭和」と「ときめき」

危機に瀕した商店街はいまでは日本中で見られ、シャッター通りと化した商店街もまれではありません。なんとかしなければと思った商店主たちが専門家の意見を聞き、活性化に向けての道筋を構想しようとしても、「お金がかかる」「足並みがそろわない」「効果に対して確信が持てない」といった理由で、なかなか実効性のある施策が打ち出されないまま、時間だけが経過していく。実際、多くの資金を投下しても、街が蘇るという保証はない。その結果、諦めにも似た感情が蔓延している。多くの商店街が直面している現実は、そうした諦めと傍観に特徴づけられているように思われます。本書の特色は、優れた着眼力を有した高校生のアイデアをベースにして、危機感を共有した商店街の店主たちが中心となって、アクションを起こしていく姿を描いている点。めざすのは、「昭和ときめき商店街」にふさわしい内実を整備すること。また、「ともかくできることからやってみよう」という発想のもと、①若い人たちの参加が不可欠、②外国人でも見込みのある人なら、巻き込んでいくべきであること、③たとえワルでも、「更生させて商店街の役に立つ」人材に変えていくのが大事であることが強調されています。商店主の無関心・非協力、隣町の反社会的勢力によるいやがらせや妨害などを乗り越えていく様子を楽しめることができるでしょう。

 

[あらすじ] 4名のおっさんと2名の高校生が立ち上がる? 

都内北部、埼京線沿いの小さな町にある旧鈴蘭中央商店街。バブル崩壊後、右肩下がりの低迷が続き、商店街は、まさに存亡の危機に瀕しています。そんな商店街をなんとかしたい! 65歳になった4名のおっさんたち(幼馴染の同級生)に、レトロ好きの高校生と奔放な女子高校生が加わり、「町おこし推進委員会」の活動が開始。昭和の雰囲気を色濃く残すものの、いまにもつぶれそうな「映画館」「角打ち酒場」「レコード店」「銭湯」などをもう一度蘇らせようと奮闘します。

 

おっさんたちの黄昏商店街

おっさんたちの黄昏商店街

  • 作者:池永陽
  • 発売日: 2019/03/05
  • メディア: 単行本