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『こちら弁天通りラッキーロード商店街』 - ハチャメチャの思いつきとアイデアで! 

「商店街の活性化を扱った作品」の第三弾は、五十嵐貴久『こちら弁天通りラッキーロード商店街』(光文社、2013年)。カリスマ的な重みをもった人物のアイデアに基づいた活性化物語。借金取りから逃げてお寺に身を隠した主人公の思いつき的なアイデアが地元商店街の活性化に結実していくという、ちょっとユニークな設定の作品です。

 

[おもしろさ] なんでも百円で売ればという、いい加減な提案が

借金取りの過酷な取り立てから逃げ、お寺に身を隠した主人公。住職不在の寺を守ってきた商店街の店主たちに新しい住職と間違われ、御前様とあがめられることになります。この本の魅力は、ニセ住職のアイデアが「自らの便益」のために思いついたもので、いい加減なものであったにもかかわらず、その妙に核心を突いた着眼点によって、商店街の活性化に生かされていくという設定のおもしろさにあります。例えば、商店街の組合長で、喫茶店を営んでいる人物には、コーヒーもトーストもゆで卵も、すべて百円で提供しろと言い放ちます。それは、ただ自分自身が安い値段で飲み食いしたいという動機からの提案だったのです。なにしろ、ほとんどお金を持たずに逃げてきた彼は、お寺のさい銭箱から勝手に頂戴した10万円ほどしか持ち合わせていなかったのです。文具屋にも、全品100円での販売を指南します。パン屋にも、大きさを半分にして全品100円で売るようにしたうえ、パンを喫茶店で販売するようにアドバイスします。いずれの場合も、当初は利益がほとんど出なくて、店主たちには大いなる戸惑いが。ところが、ほとんど利用する者がいなかった商店街にたくさんの人が来るように。そのうち、御前様に頼めば、なんとかしてくれるという評判が立ち始めます。いちいちアドバイスするのが面倒だったからにすぎなかったのに。やがて、百円販売の積み重ねがベースとなり、「百円均一商店街」という明確なコンセプトが浮かび上がってくることになります。

 

[あらすじ] 「つぶれる前に勝負をしてみたらどうだ!」

赤羽で小さな印刷会社を経営していた笠井武48歳。知人の連帯保証人になったことで、1億円を超える借金を抱え込みます。過酷な取り立てから逃げ、身を隠したのが、ラッキーロード商店街のはずれにある無人のお寺。首をくくろうかと考えていた彼は、商店街の老人たちに新しい住職と勘違いされたうえ、「御前様、この商店街には未来がない。ポックリ逝かせてほしい」と懇願されます。笠井がその理由を尋ねると、ラッキーロード商店街の老店主たちは、もう生きていても仕方がないと言うのです。平成2年に駅の反対側にできた巨大ショッピングモールに客を奪われ、シャッター街と化してしまったのです。かくして、笠井は「御前様の祈祷は効き目がある」と信じて疑わない商店街の店主たちに頼られることになります。「古いやり方ではもうやっていけない、新しい発想が必要だ」「どうせ店を畳むんなら、一発賭けに出てもいいんじゃないか。遅かれ早かれ店はつぶれる。そうなる前に勝負をしてみたらどうだ」と、発破をかける笠井。そして、商店街の連中は、ニゼ住職の冗談に近い提案を真に受け、名実ともに「百円均一商店街」に生まれ変わっていく様子を目の当たりにするのです。