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『ビル街の裸族』 - コンビニ本部と加盟店のビミョウな関係! 

買い物をするところで、最も身近なお店はどこか? そう聞かれると、多くの場合「コンビニ」という答えが返ってくることでしょう。コンビニが日本に登場したのは、1970年代初めのこと。その後、大きく成長していきます。急成長の過程で構築されたビジネスモデルとして、POS(販売時点情報管理システム)、フランチャイズ方式、24時間営業、大量出店、定価販売があります。しかし昨今、人手不足の高まりのなか、そうしたビジネスモデルの一角、特に「24時間営業」が揺らぎ始めています。今回は、多くの人が利用しているにもかかわらず、必ずしも十分には知られていないコンビニ業界の内部に踏み込んだ作品を三回に分けて紹介していきます。

「コンビニを扱った作品」の第一弾は、阿部牧郎『ビル街の裸族』(講談社文庫、1992年)です。コンビニ業界の実態、とりわけオーナーたちの苦労、数多くの店舗を統括するコンビニチェーン本部の考え方、本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)との関係などが描かれています。対象となっている時期は1980年代なので、少し古いのですが、コンビニ業界を描いた古典的な作品と言えるでしょう。

 

[おもしろさ] 粗利益の45パーセントが本部に吸収される! 

本書の読みどころは、本部と加盟店(オーナー)の関係がクリアに描かれている点にあります。確かに、店舗の改装、経営指導、商品の供給、広告宣伝などはすべて本部の手で行われ、「わずか250万円(加盟の権利金)」で簡単にオーナーになれるというのは、大きな魅力です。しかし、その反面、オーナーには多大な負担と制約が課せられることになります。コンビニの経営者に重くのしかかる最大の負担は、高いロイヤリティ=ノウハウ料。ここで登場するコンビニチェーン・日本オールデイス(大手スーパー南陽堂の子会社)の場合、売上高から仕入れ高を差引いた粗利益の45%が本部の取り分となっています。それ以外にも、店内レイアウト料、看板料、さらには開店案内のチラシ、従業員用の制服、買い物かご・買い物袋・傘立てなどの部品代などで、300万円の出費となります。また、オーナーの都合で勝手に営業時間を決めることができません。現金問屋で勝手に商品を仕入れることは契約違反になり、三回摘発されると、100万円のペナルティが徴収されることになっています。本書を通して、開発部員がめぼしい商店を傘下に組み込んでいくプロセス、加盟店の相談係であるFC(フィールド・カウンセラー)のケアぶり、FCを統括するディストリクト・マネージャー、POSの仕組み、レジにある年齢別キーなど、コンビニの内実がよく理解できることでしょう。

 

[あらすじ] 犯行のウラに秘められたものとは? 

日本オールデイズの社員である相原邦夫が出席していたのは、加盟店が3000店に達したことを記念するパーティ。そこには、傘下のコンビニのオーナーとその家族が招かれていました。彼らの多くは、同社の本部に批判的なオーナーたちでした。冷笑、反感、嫌悪、自嘲に溢れた表情で、主催者のスピーチを聞いていたのです。一人の女性が近づいてきました。6年ほど前に自分がFC(フィールド・カウンセラー=加盟店の相談係)として担当していた「内藤ショップ」の娘・内藤典子です。「お元気ですか」という問いかけに、「みんなくたくたよ。オールデイズに年貢を取り立てられて」となじられます。席上、同チェーンの一部に毒物を入れた商品を混入させたという一報がもたらされ、翌日には、佐藤裕一社長の他殺死体が発見されることに。さらに、殺された佐藤社長のデスクから、現行のロイヤリティ(45%)を30%に引き下げるように要求する脅迫状が見つかります。犯人は誰か? 犯行の動機は何か? そうした謎解きが展開されるなかで、コンビニ業界の熾烈な戦いの現場、過酷なノウハウ料など、コンビニ業界の内幕が暴かれていきます。

 

ビル街の裸族 (講談社文庫)

ビル街の裸族 (講談社文庫)