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『リスクの神様』 - トラブルに巻き込まれた企業を救う「危機管理専門家」

いま新型コロナウィルスの感染によって、日本も世界も大きな試練・リスクに直面しています。行政レベルでは、感染拡大の阻止、検査・医療体制の充実、不況対策、生活に対する悪影響の軽減策などが論議・実施されています。企業レベルでは、業績の低迷に対する是正措置、従業員の健康不安に対する対応策などの検討・実施が課題になっています。そして個人レベルでは、感染予防の徹底が最大の関心事になっています。もちろん、行政・企業・個人の三者が抱えている試練・リスクは、単に新型コロナウィルスに関するものに限られるわけではありません。それぞれのレベルで、文字通り多種多様なリスク・トラブルが存在します。リスクに対する抵抗力を高めるのは、「もしこうなったら、どうする」ということをさまざまな局面について、あらかじめ考えて準備をしておくことだと言われております。そこで、今回は、そのうち、企業リスクに焦点を合わせて、「リスク対応力」の充実を扱った作品を三回に分けて紹介します。

「企業のリスク対応力を扱った作品」の第一弾は、百瀬しのぶ(脚本:橋本裕志)『リスクの神様』(上下巻、小学館文庫、2015年)です。「危機をチャンスに変えるリスクの神様」と称された男=西行寺智が主人公。トラブルに巻き込まれた企業を救う「危機管理専門家」と称される人たちの活躍が描かれています。2015年7月8日に放映がスタートしたフジテレビ系ドラマ『リスクの神様』(出演:堤真一戸田恵梨香)をノベライズしたもの。上巻には第一話~第五話、下巻には第六話~第十話が収録されています。

 

[おもしろさ] 「ミスなど起こりえない」という先入観の罠

偽造、隠蔽、不正な利益供与、粉飾決算、個人情報の流出など、企業の不祥事やトラブルは、枚挙にいとまがありません。そうした事態が発生したとき、初動を誤ると、当該企業に対する信頼が失墜してしまうことになりかねない。かといって、ごく普通の人の感覚で事態に立ち向かおうとしても、うまく対応できない。それが一般的。「ミスなど起こりえない」といった先入観が適切な対応を阻害してしまうのです。そこで、トラブルが生じたときに、そのダメージを最小限に食い止める、場合によっては、さらに自社に有利な形で収束していくことができる力を有した専門家が必要になってくるのです。本書のおもしろさは、サンライズ物産を舞台に起こるさまざまな事件やトラブルを、「リスクの神様」がどのようにして解決していくのかを描いている点にあります。読者には、たくさんの「なるほど」という読後感を残してくれることでしょう。「リスク対応力」の向上につながる作品です。

 

[あらすじ] 不祥事起こして、獲物を狙うもあり

かつてアメリカのGE社や政府関連の危機管理に携わり、数々のトラブルを解決したことで、「リスクの神様」と称されるようになった西行寺智47歳。その手腕を見込まれた彼は、日本最大の商社であるサンライズ物産に「危機対策室室長」として雇われ、物産のみならず、系列企業のリスクマネジメントも任されることに。迅速で、考え抜かれた彼のアクションが実に爽快です。ひとつの事例を紹介しましょう。「短時間で莫大な電気量を蓄電できる次世代型バッテリーLIFE」を搭載した自走型掃除機の発火事故が出てきます。事故が起こった零細企業の経営者に対しては、建て替え、工場への発注などの好条件で事故映像データと事故製品を貰い受けることに成功する西行寺。また、製品に不備が見つかると、ただちに謝罪会見を開いてリーコールを発表。しかし、すべては仕組まれたことだったのです。

 

 

リスクの神様 (上) (小学館文庫)

リスクの神様 (上) (小学館文庫)

 
リスクの神様 (下) (小学館文庫)

リスクの神様 (下) (小学館文庫)