「総理大臣を扱った作品」の第二弾は、池井戸潤『民王』(ポプラ社、2010年)。心と体が入れ替わった総理大臣と、シュウカツ中である大学生の「バカ息子」。試行錯誤を繰り返しながらも、二人三脚で、いつしか国会と国民に新風を巻き起こすという、奇想天外な物語。2015年にテレビ朝日で放映された『民王』の原作本。遠藤憲一さんが父親の総理大臣役を、菅田将暉さんが息子の大学生役を演じました。
[おもしろさ] 政治に染まっていない人が率直に語る政治とは?
本書のおもしろさのひとつは、政治の世界にどっぷりと浸かってしまった総理大臣と、政治はもちろん、大人の世界にもまったく染まっていない息子が入れ替わることで、それまで見えてこなかったそれぞれの世界が鮮明になっていくというプロセスをコミカルなタッチで描いている点にあります。当初は、国会での審議内容の意味がまったく理解できず、しかも原稿の読み方も間違いだらけ。「なんつーか、我が国はいま、ミゾユーの危機にジカメンいたしまして」といった具合です。ところが、大人・政治の世界に染まっていない故の率直な意見と純粋な気持ちが、いつしか国会や国民を動かしていくことに。もうひとつのおもしろさは、失言・漢字の誤読・スキャンダルといったトラブルの数々、二世議員の多さに伴う政治家の「家業化」、マスコミに対するへつらい、票田至上主義などによって特徴づけられる政治家・政界の内実を浮き彫りにしている点です。
[あらすじ] 入れ替わりのウラに隠された陰謀とは?
ある日のこと、総理大臣の武藤泰山(民政党総裁)とその息子である、遊び好きの武藤翔が、とある歯医者での治療中にチップを埋め込まれることに。その結果、両者は、心と体が入れ替わってしまいます。親と子どもが入れ替わるという同じ現象が鶴田経済産業大臣や、武藤の政敵である蔵本志郎(野党憲民党党首)にも表れます。警視庁公安第一家の新田警視を軸とした犯人捜しの過程で、とてつもない陰謀が明らかにされていきます。