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『総理の夫』 - 「日本初の女性総理」を支えたのは夫の存在

「総理大臣を扱った作品」の第四弾は、原田マハ『総理の夫』(実業之日本社、2013年)。日本初の女性総理に就任した42歳の相馬凛子を夫の目線から描いた作品です。度胸と、茶目っ気と素早いレスポンスの三拍子そろった総理大臣を演じられたのは、やはり夫の支えがあればこそだったのです。「感謝してるよ。一人じゃなかったことに。私と一緒にいてくれたことに」と、凛子。

 

[おもしろさ] 国民が期待する総理大臣像とは? 

この本の魅力は、誠実で、正義感にあふれた女性総理大臣のリーダーシップ・行動力を軽快なタッチで描いていること。筋道立ててきちんと説明すれば、国民も聞く耳を持っています。そこで、税制、エネルギー、子育てなど、国民目線で女性にやさしい政策を実施しようとします。ところが、政財界の保守的な連中から、やっかみの嵐が。内閣総辞職解散総選挙かの選択を余儀なくされた凛子。①消費税率の再引き上げと社会保障改革、②大規模な景気対策、③少子化対策と雇用促進という三本柱を掲げて、国民に話しかけます。「国民の皆さん。私が先頭に立ちます。これから出航する海は、ひどく荒れています。けれど私は、皆さんを幸せな未来に導くために、決してひるまず、この海に立ち向かいます。ともに、荒波を乗り越えていきましょう」。総選挙で勝利をおさめた凛子は、議員の給与や特権の削減、歳出の抜本的な見直し、脱原発、正社員を拡大させる雇用政策、育児と子供への支援、高齢者福祉の充実などに取り組みます。

 

[あらすじ] 一番の味方はファースト・ジェントルマン

42歳の若さで第111代総理大臣に就任した相馬凛子は、東京大学法学部卒業後、ハーバード大学院法学政治学研究科博士課程修了。政策シンクタンクでの研究員を経由して、31歳で衆議院議員に当選。いまでは直進党党首になっていたのです。彼女の総理就任を画策したのは、保守的な民心党党首の原久郎。野心的かつ急進的な人物であり、稀代の策士。「癒着を嫌い、惰性を嫌い、本気で日本を変えていこうという気概にあふれた、ジャンヌ・ダルクのごとき闘う女性政治家」としての力量にかけたのです。と同時に、「絶大な国民的人気を得た女性総理に盾になってもらうほかはない」とも。一方、夫の日和は、鳥類研究家でありながら、ファースト・ジェントルマンとして、妻を支える決意。とはいえ、総理への就任によって、相馬家の生活は一変してしまいます。

 

総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)

総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)

  • 作者:原田マハ
  • 発売日: 2016/12/03
  • メディア: 文庫