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『首都感染』 - 致死率60%以上という強毒性のウイルスが蔓延すると! 

依然として、新型コロナウイルスに悩まされる日が続いています。コロナウイルスは、ヒトを含む哺乳類や鳥類などに広く存在。2002年に中国広東省で発生したSARS、2012年に中東地域を中心に発生したMERSも、コロナウイルスの一種です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新たに発見されたSARS-CoV2に感染することで発症します。それによるパンデミック(感染爆発・世界的流行)が進行している現状を踏まえ、今回は、インフルエンザ・ウイルスによるパンデミックを扱った作品を二つ紹介します。いずれも、感染症の恐ろしさ、対策のむずかしさなど、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う今日の窮状をすべて「予言」した作品です。

パンデミックを扱った作品」の第一弾は、高嶋哲夫『首都感染』(講談社文庫、2013年)です。世界中を巻き込んでいる新型コロナウイルス。われわれを恐怖に陥れ、ライフスタイルを一変されるほどの影響を与えています。このところ、日本における感染者に対する死者の比率はおおむね4.6%、世界では6.7%前後(ジョンズ・ホプキンス大学による)となっています。では、もし致死率が10%未満ではなく、60%を越える強毒性のウイルスが蔓延すると、いったいどのような事態が生じるのか? 本書では、最悪のパンデミックの発生から収束に至るまでの空前絶後のプロセスがリアルに、われわれに突き付けられています。

 

[おもしろさ] 感染者56億人8000万人、死者12億5000万人

たとえ弱毒性のものであっても、ヒトに免疫がないインフルエンザ・ウイルスが流行すると、パンデミックが発生することは、昨今の新型コロナウイルスの感染が示す通りです。本書の特色は、強毒性のH5N1型鳥インフルエンザがヒトからヒトヘの感染を可能にする遺伝子変異を続けて、呼吸器系のみならず、全身の臓器を機能不全に陥れることで、パンデミックを引き起こす過程が克明に描写されている点にあります。最終的には、「世界人口71億人のうち、80%の56億人8000万人が感染し、その22%にあたる12億5000万人が死ぬ」というのですから、身の毛もよだつ恐ろしさを感じざるを得ないでしょう。

 

[あらすじ] 感染症対策を知り尽くした医師が東京を封鎖! 

中国でサッカーのワールド・カップが開催された20××年6月。スタジアムから遠く離れた雲南省で、致死率60%という強毒性の鳥インフルエンザによる感染症が猛威を振るい始めていました。当局の態度は、「なんとしても封じ込めろ。外国に悟られるようなことがあってはならぬ」というもの。2003年にSARSが流行したとき、秘密裏に封じ込めようとして失敗したうえ、発表が遅れたことで世界の非難を浴びた中国。そうした苦い過去があったにもかかわらず、ワールド・カップが終わるまでは感染症の発生を公表したくなかったのです。世界の目が中国に向けられ、数十万人ものサポーターが世界中からやってきています。感染の公表で、中国の威信が地に落ちてしまうことを恐れたのです。ところが、雲南省での感染に関するいくつもの極秘情報を繋ぎ合わせたうえ、いち早く防止対策の必要性を感じ取ったのが、日本政府でした。総理大臣の瀬戸崎雄一郎64歳と、医師でもある厚生労働大臣の高城明は、政府内に「新型インフルエンザ対策本部」を立ち上げます。そして、東京の黒木総合病院の医師として勤務していた瀬戸崎優司35歳に参加を依頼します。優司は、かつてWHO(世界保健機構)のメディカル・オフィサーとして感染症対策の最前線で活躍し、大きな評価を得た人物だったからです。対策本部の事実上のリーダー格として活動し始めた彼は、中国から日本への帰国者が空港に殺到し、同時にウイルスを持ち込むことになるリスクを軽減するため、周囲の反対を押し切って、空港閉鎖を実現させていきます。そして、わずかな隙間から検疫網が突破され、都内に感染者が見つかると、今度は環八通りを境界線にして、空前絶後の「東京封鎖」が……。

 

首都感染 (講談社文庫)

首都感染 (講談社文庫)

  • 作者:高嶋 哲夫
  • 発売日: 2013/11/15
  • メディア: 文庫