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『小説 出光佐三』 - 90歳を超えても経営の第一線で活躍した男の生き様

出光佐三・出光興産を扱った作品」の第二弾は、木本正次『小説 出光佐三 燃える男の肖像』(復刻ドットコム、2015年)。90歳を超えても「店主」として、社長・会長の上に君臨し、経営の第一線で活躍し続けた出光佐三の生き方、業績、経営理念が小説風ではあるものの、実名で描かれています。

 

[おもしろさ] 常に独創的・革新的な考えで苦難を克服し続けた!

本書の魅力は、苦難の連続ではあったものの、あらゆる点において、常に独創的・革新的であった出光佐三の生き様をクリアに描いていること。特に、キーとなるいくつかの重要な経営に対する考え方があり、それに基づいて実際の経営がなされていた様子を興味深く理解することができるでしょう。では、彼の経営に対する考え方とは、どのようなものだったのか? 「人間そのものを尊重して、国家、民族に貢献できる事業を営まねばならない」。「ただ物を動かして、利鞘を取るだけの商人は不要になる。ただし、生産者と消費者を直結して、その中間に立って相手の利益を考える配給者としての商人は、残る」。「第一にも第二にも、第三にも第四にも、『人』が資本なんだ。金というのは、第五か第六に来るものなんだ」。「人間尊重の出光は、馘首してはならぬ」。そうした考えに基づき、出光興産のビジネスはなされていたのです。

 

[あらすじ] 門司から始まり、東アジアに拡大していったのだが! 

明治44年、北九州生まれの出光佐三は、日本石油の下関販売店の機械油特約店として開業。本拠地と定めたのは、関門海峡を臨む門司。当時の門司港は、すでに日本の一部であった朝鮮や、日露戦争の結果日本の勢力圏となった満州への、日本全体の大玄関だったのです。スタート時点から、困難を極めることが予見されていた機械油を扱ったのは、灯油の特約店はすでに満杯で、唯一残っていたのが機械油の特約店だったからです。陸上では特約店にテリトリーがあったので、海上での販売からスタート。船のエンジンに、だぶついていた軽油を活用するというのも、彼のアイデアでした。門司での業務体制が整備されてくると、満鉄への食い込みから、さらには朝鮮、中国、台湾といった海外への進出が目論まれていきます。ところが、敗戦によって、海外での業務は一切なくなってしまいます。戦後の出光は、まさにゼロからの再出発だったのです。

 

小説出光佐三 ~燃える男の肖像~

小説出光佐三 ~燃える男の肖像~

  • 作者:木本 正次
  • 発売日: 2015/09/18
  • メディア: 単行本