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『介護退職』 - 介護か、退職か? さて、どうするのか? 

日本社会が抱える大問題のひとつに、人口の老齢化があります。総務省統計局によれば、2019年9月15日現在の総人口に占める65歳以上の高齢者の比率は28.4%。対前年(28.1%)比で0.3ポイント上昇し、過去最高となりました。その数値は、今後もさらに高まることが予想されています。高齢者の増加により生じる問題のひとつに、介護に関わるものがあります。そこで、今回は、「介護する家族の視点」「リハビリ病棟の看護師の視点」「介護施設の視点」という三つの角度から「老人介護を扱った作品」を四回に分けて紹介します。

「老人介護を扱った作品」の第一弾は、楡周平『介護退職』(祥伝社、2011年)です。もっぱら自分の仕事上の課題を優先させて人生を送ってきた50歳の男性会社員が、突然、介護という課題を突き付けられることに。そして、介護か退職かの選択を余儀なくされられます。さて、どうするのか? 昨今、大きな問題となっている「介護離職」「介護退職」を真正面から取り上げた作品です。

 

[おもしろさ] 当事者になってみないと、わからない世界が! 

人は皆、若い頃には、父母がやがて老いていくことなど、想像さえしなかったのではないでしょうか。自分の生活を自立させることで精いっぱいの生活を送ってきたことでしょう。しかし、中高年に差し掛かると、両親の老いと対峙し始めることになります。そして、病気・事故・加齢などで、他の人のサポートを受けざるをえなくなるときがやってくると、親に対する支援・介護という課題と直面することになります。とはいえ、実際に当事者にならないと、よくわからないというのが現実! この本は、突然、親の介護と向き合うことになった男性会社員の悩みと克服への模索をリアルに描いています。

 

[あらすじ] その日は、突然やってきた! 

総合家電メーカー・三國電産の国際事業本部で、北米事業部の部長をしている唐木栄太郎。これからの2~3年は、彼にとってとても大事な時期でした。北米市場でどれだけの実績を上げられるのかで、部長で終わるか、あるいはもう一段の高み、取締役国際事業本部長の座につけるかが懸かっていたからです。ところが、秋田県で独り暮らしをしている母親の愛子(76歳)が雪かき中に骨折したことで、東京の自宅で一緒に暮らすことに。車椅子を手放せない愛子と栄太郎一家の同居が始まります。ひと月ばかりの間に、ボケの兆候が誰の目にも明らかになっていく愛子。老人性の認知症と診断されました。さらに、リハビリのための病院への送迎を行っていた妻の和恵が、くも膜下出血を起こし緊急手術を受けることとなります。そのため、会社での仕事が支障をきたすことに。退職を余儀なくされた唐木は……。

 

介護退職 (祥伝社文庫)

介護退職 (祥伝社文庫)

  • 作者:楡 周平
  • 発売日: 2014/09/01
  • メディア: 文庫